首都圏の農家の男性から、本紙「農家の特報班」に情報が寄せられた。手数料を上げるのは、この男性を含め、インボイスを発行できない「免税事業者」だけだという。
明確な理由なく
この男性によると、直売所の運営会社から7月に、インボイス制度への登録状況を確認する文書が届いた。目を通すと、販売手数料についても記述がある。同制度が始まる10月1日から、「インボイス発行事業者は今まで通り20%、免税事業者は25%とさせていただく」。理由は書かれていない。
同制度の開始後、直売所は、飲食店など仕入れ目的の客にインボイスを発行する必要がある。農家から農産物を買い取って販売する直売所では、免税事業者の農産物を販売すると、直売所は「仕入税額控除」ができず、税負担が増える。このため、農家と協議して免税事業者との取引内容を見直し、税負担分を手数料などに転嫁する場合がある。
売り上げ減懸念
引き上げの理由は何だろうか──。男性は疑問を感じたが、説明会などは開かれていない。一方、水道代や人件費の上昇、インボイス用のシステム改修に費用がかかったためだと聞いた人もいるという。「だとしたら、免税事業者だけに負担させるのはおかしい」とこの男性。手数料が上がると年に10万~20万円は売り上げが減るとみており、出荷先の切り替えも検討している。
記者がこの直売所に問い合わせると、7月に文書を出したことと、その内容は事実と認めた。だが、免税事業者の販売手数料引き上げは「未定」だと説明。引き上げの理由については「いろいろな事情」として明確にしなかった。
直売所の対応に問題はないのか。公正取引委員会は、同制度に伴う「注意事例」を示している。免税事業者との取引には、税負担を軽減する経過措置もある。にもかかわらず、インボイス対応を理由に、免税事業者の取引価格を一方的に引き下げると、独占禁止法や下請法上の問題になる可能性があるという。
本紙の取材に対し公取委は、書面による通知だけで、手数料引き上げの理由も明示しないのは「一方的な対応と言わざるを得ない」との見解を示した。他に理由があるのに、インボイスを名目に手数料を引き上げることについても問題視した。
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