「インボイス」和子牛せりの現場は 下落に懸念も影響まだ限定的
13日、群馬県の渋川家畜市場。電光掲示板には、子牛の血統や日齢の表示と並んで「インボイス」の項目が加わった。インボイスを発行できる農家の子牛かどうかを見分けられるようにするためだ。
農産物はJAに販売を委託する場合に農家のインボイス発行が不要となる特例がある。子牛のせり取引はこの特例の対象外。課税事業者が多い肥育農家はインボイスがないと仕入税額控除ができず、税負担が増える。
だが、せりに参加した長野県の農家は「経過措置がある間は、気にせず買う」と話し、インボイスを発行できない農家の牛を購入した。経過措置は、免税事業者からの仕入れでも、制度開始から3年間は8割、その後の3年間は5割を仕入税額控除ができる特例だ。
例えば、免税事業者の繁殖農家から税抜50万円の子牛を買うと、本来は消費税分の5万円が控除できず、肥育農家の負担となる。一方、26年9月末までは1万円、29年9月末までは2万5000円の負担増で済む。
同日の平均価格は53万5672円で、前月より1%上げた。運営するJA全農ぐんまによると、600万円超の値が付いた雌牛が押し上げたためで、実際の相場は下落傾向が続く。だが、肥育農家の生産コスト高騰や枝肉相場の低迷などが主因で、経過措置もあるため、インボイスの影響は「今回は、ほぼなかったのでは」とみる。
経過措置終了後に不安
他の家畜市場も、現時点で影響は小さいとみている。鹿児島県・徳之島中央家畜市場で3、4日に開かれたせりは、出品牛594頭中、インボイスを発行できない農家の牛が324頭。平均価格は45万8678円で、前月より9%下がった。だが、運営するJAあまみによると、発行できない農家の子牛だけが大きく下がったわけではなかった。
5日にせりを開いた鳥取県・鳥取中央家畜市場も同様の見方だ。平均価格は前月より10%安い51万6533円となったが、インボイス発行の可否による差はみられなかったという。運営するJA全農とっとりは、税負担増を抑える経過措置のためだとみる。
ただ、両市場からは、インボイスを発行できない農家の子牛について「入札の勢いが弱かった」との指摘もあった。一方、平均価格が前月より1割超下がった市場の担当者は、価格下落は他の要因が大きいとしつつ、「多少は影響したかもしれない」とみる。インボイスを発行できない農家の牛が、出品頭数の2割を占めたという。
インボイスを意識して買う肥育農家もいる。鹿児島県のある農家は今月、インボイスを発行できる農家の牛を優先して買い付けた。「(インボイスを発行できる・できない)子牛が混ざると経理が複雑になる」ためだ。ただ、「最優先は牛の状態」。優れた子牛はインボイスを発行できなくても買ったという。
経過措置の終了後には影響が表面化するとの見方もある。
群馬県内の肥育農家は「(税抜き50万円の子牛を買って)1万円の差なら気にしないが、2万5000円、5万円の差となると気にせざるを得ない」と話す。
<メモ>免税事業者は発行できず
10月から、消費税を納める際、仕入れ目的で支払った消費税額を差し引く「仕入税額控除」にインボイスが必要となった。年間売上高が1000万円以下の「免税事業者」は、消費税を納める「課税事業者」にならないと、インボイスを発行できない。