
福島県の農家の女性(47)から本紙「農家の特報班」に質問が届いた。インボイスを発行できない免税事業者の取引価格を一方的に引き下げると、独占禁止法に触れる可能性があることを指摘した本紙記事を読み、気になったという。
女性が教えてくれたのは、同県でリンゴや桃を栽培する50代の農家の男性。記者が話を聞くと、スーパーの青果バイヤーから9月下旬に電話があり、「インボイスを発行できない農家とは取引を続けられない」と言い渡されたという。
男性は免税事業者でインボイス制度に登録していない。「取引停止は寝耳に水だった」。取引は直売コーナーでの委託販売で、3カ月ほど前に登録の有無を確認する書類は届いたが、取引停止を示唆する記載はなかった。
このスーパーは県内で複数店舗を展開。本社に取材したところ、直売コーナーで免税事業者の農家の農産物を受け入れていないのは事実と認めた。会計処理の負担が増えるのを避けるためで、出荷農家には「各店舗から口頭で説明するよう指示していた」という。店舗がどう説明したかは承知しておらず、「迷惑をかけたなら申し訳ない」と話した。
独禁法には触れず 農家苦慮

スーパーの対応に問題はないのか。
公正取引委員会に聞くと、「独占禁止法や下請法に違反しているとは言えない」との見解を示した。事業者がどの事業者と取引するかは自由で、免税事業者であることを理由に取引を停止しても、法律上は問題ないという。ただ、制度開始の直前に一方的に言い渡すのは「事業者として正しい対応とは思えない」と苦言を呈した。
一方、価格交渉の手段として取引停止を迫った場合、独占禁止法違反になる可能性があるという。だが、男性によると、このスーパーから価格に関する提案・要求はなかった。
記者がこうした見解を伝えると、男性は「インボイス制度で小規模農家の取引機会が奪われるのは、良い気持ちがしない」とこぼした。10月から出荷予定だったリンゴは急きょ他の直売所に振り替え、何とか対応できる見込みという。
東京商工リサーチの8月のアンケートによると、回答があった5896社中、8・3%が「免税事業者とは取引しない」との意向を示している。
<ことば>インボイス制度
10月から、消費税の納税額から仕入れで支払った消費税額を差し引く「仕入税額控除」にインボイスが必要となった。年間売上高が1000万円以下の「免税事業者」は、消費税を納める「課税事業者」になった上で制度に登録しないと発行できない。
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