農水省で盗難防止対策を担当する園芸作物課に尋ねると、「まずは日々の作業を見直してほしい」という。例えば、脚立や収穫用コンテナは、園地を離れる際に撤去する。犯人が使うのを防ぐためだ。ハウスや倉庫の出入り口に加え、窓も小まめに施錠。不審な車両を見たらナンバーを控え、警察に通報する。
作業時に農園の名前を明記した腕章を付けたり、車両にステッカーを貼ったりするのもよいという。不審な人物や車両を区別しやすくするためで、特に、従業員を雇用する場合に有効だ。徹底すると「いつもの腕章がなく、怪しい」と近隣住民も気付きやすくなる。
ダミーのカメラでも効果
果樹産地を抱える山梨県警は、防犯グッズの活用を促す。「犯人はほぼ確実に下見をする。防犯対策をしていると思わせることが大切」(生活安全企画課)。標的にされにくくなるという。人の動きを感知して作動するセンサーライト・警報器は2000円程度から、防犯カメラは5000円程度から、インターネットやホームセンターなどで購入できる。
防犯カメラは、園地内や外周を網羅的に設置するのが理想だが、費用がかかる。車両のナンバープレートが映ると犯人を特定しやすいため、車道側が映る位置に設置すると効率的だ。ダミーのカメラも「何も対策をしないよりは効果が期待できる」(同課)。ネットで1000円程度で買える。
看板、のぼりでアピール
農地には電源がないこともあるため、防犯グッズは太陽光発電パネルで動くものを選ぶとよい。コンセントから給電するより数千円高い商品もあるが、配線工事をするよりも費用を抑えられる。
併せて「防犯カメラ録画中」などと書いた看板やのぼり旗を道路から見えるように設置し、警戒している姿勢を示すのも有効だ。犯人は外国人の場合もあるため、英語やピクトグラム(絵文字)を使うとよいという。
「複数同時」で被害減少
JAの盗難対策が、効果を挙げた地域もある。スモモやサクランボ、桃の盗難に悩まされてきた山梨県の南アルプス市。JA南アルプス市によると毎年約60件の被害があったが、JAが対策に力を入れた2018年以降、10件程度に減った。サクランボの盗難は今年、少なくとも30年ぶりにゼロになったという。
「一農家の対策だけでは限界がある。複数の対策を同時に行ったことが被害減少につながった」と、JA営農指導部。18年から、園地に侵入があった場合に警報が鳴り、農家にメールで通知するシステムを貸し出す。22年には県や市の補助事業を活用して防犯カメラを600台導入し、農家に半額以下で販売した。カメラ未設置の園地での被害が多かったためだ。システムと防犯カメラは太陽光発電で動くものを選んだ。
収穫期の6~9月には、市や南アルプス警察署と協力し、車両で夜間パトロールを行う。市内を2地区に分け、①片方を市が午後5~7時②もう片方をJAが午後6~8時③警察は市全域を午後10時から明け方まで――担当する。JAは青色回転灯を付けた車両で巡回。約10年前に始めたが、22年から場所や時間を分担し、効率的に回れるようになった。組合員から寄せられた不審車両のナンバーをJAがリスト化し、重点的に確認する。
JAは、果実の出荷説明会に合わせ、警察署員による盗難対策講習会も開く。収穫物を放置しないことや、不審者情報の提供を呼びかけている。
JA、警察が分担して巡回
盗難防止対策には、地域の他の農家や住民の協力も欠かせない。農水省園芸作物課はJAの広報誌やちらし、交流サイト(SNS)を活用して呼びかけるよう勧める。JAの支店や営農センター、地元警察署の電話番号を記載すると、被害や不審者の情報が集まりやすくなり、地域内での情報共有や対策の検討もしやすくなる。
警察庁によると、転売目的だけでなく、近隣住人が自家消費目的で少量を盗む場合もある。被害にあった農家の中には「このくらいで大げさだ」と思って通報しない人もいるというが、「さらなる事件を防ぐため、盗難を確認したら少量の被害でも必ず通報してほしい」(生活安全企画課)と呼びかける。
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