食料自給率は、国内の食料供給に占める国内生産の割合を示す。65年度の統計開始時はカロリーベースで73%だったが、長期的に低下。2000年度以降は40%前後で推移している。20年度は小数点以下も含めると37・17%。1993年度の37・37%、2018年度の37・42%を下回り、過去最低となった。
農水省は低下要因として、ほとんどを国産で賄える米の消費減退を挙げる。20年度の1人1年当たりの供給量は50・7キロと、前年度より2・5キロ減った。
小麦の生産量の減少も響いた。20年産の全国の10アール当たり収量は447キロで、前年産を8・8%下回った。平年は上回ったものの、過去最高だった前年産の反動で減った形だ。
原料の多くを輸入に頼る砂糖やでんぷん、油脂類などの消費は、新型コロナウイルス禍による土産需要の縮小などで減った。だが自給率を押し上げるには至らなかった。
一方、生産額ベースの自給率は67%で、前年度を1ポイント上回った。豚肉や鶏肉、野菜、果実などの国内生産額が増えたのに加え、魚介類や牛肉、鶏肉、豚肉などの輸入額が減ったことが寄与した。同省は、コロナ禍による外食需要の減少や家庭食の増加の影響もあるとみる。
国内生産だけで生産できる熱量を示す「食料自給力指標」は、前年を下回った。米・小麦を中心に作付けした場合の1人1日当たりの供給可能熱量は1759キロカロリーで、前年度比2キロカロリー減。体重を維持するのに必要なエネルギー量の2168キロカロリーを下回った。
政府は食料・農業・農村基本計画で、30年度の食料自給率をカロリーベースで45%、生産額ベースで75%とする目標を掲げる。農水省は「達成できる目標だと考えている」(大臣官房)と強調。麦・大豆や加工・業務用野菜などを輸入から国産に置き換えるといった対策を進める考えだ。
[解説]基本計画 着実に実行を
2020年度のカロリーベース食料自給率は、過去最低の37%に低下した。だが同自給率は、国民の消費・需要動向にも左右される。20年度の低下の最大要因も、米の需要量の減少だ。低下は食い止めるべきだが、これだけを見て「食料安全保障」の確保を論じるのは適切ではない。農地や労働力などの生産基盤に着目し、潜在的な生産力といえる「食料自給力指標」にも、もっと注目する必要がある。
20年度の同指標は農地面積の減少を受けて前年より低下。既に、芋類中心の作付けに切り替えなければ、体重を保つのに必要なエネルギー量を維持できない状況が続いている。
畜産物の国内生産量が増える中でもカロリーベース自給率が伸びないのは、飼料自給率が低いためだ。国内生産量の維持・拡大には、農家の経営が成り立つことが大前提で、生産額ベースの食料自給率も高める必要がある。食料安保の確保にはこうした多様な指標を分析し、いずれも高めなければならない。
その指針は昨年3月策定の食料・農業・農村基本計画で既に示されている。将来にわたる食料の安定供給には需要の変化への対応や生産基盤の強化を通じ、国内生産の維持・増大と農家の所得向上が必要と明示する。着実に実行すべきだ。
需要の変化に対応した生産では、米から小麦や大豆への転換などで、同計画で示した生産努力目標の達成が求められる。同計画は「消費者と食と農とのつながりの深化」の必要性も掲げた。同省の新たな国民運動「ニッポンフードシフト」などを通じ、国産を積極的に選ぶ行動変容を促すことも欠かせない。(岡部孝典)
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