石破茂首相は21日、「米は買ったことがない」と発言した江藤拓農相を事実上更迭した。後任には自民党農林部会長も務めた小泉進次郎元環境相を起用した。首相は小泉氏に、米価引き下げを急ぎ、政府備蓄米の放出で随意契約も活用した売り渡しを検討するよう指示。農水省は28日からの入札をいったん中止し、随意契約を踏まえた対応方針を検討する。
備蓄米放出や、2027年度からの水田政策の見直しを含む新たな食料・農業・農村基本計画の具体化など農政課題が山積する中、推進を担った江藤氏の更迭は石破政権にとって打撃となる。
首相は21日、官邸で小泉氏に会い、安定した価格での米の供給に向けた取り組みの強化を指示した。備蓄米放出での随意契約の活用は、現行の競争入札よりも低価格で放出する狙いがある。
小泉氏は農水省で就任会見に臨み、米の価格引き下げへの意欲を示した。随意契約を踏まえた制度設計は、関係法令との整合性について協議が必要だとした上で、「一定の政治判断でやらなければならない場合は、ちゅうちょなくやりたい」と強調。「仮に需要があった場合は無制限に出すといったことも含め、今までと違う大胆な手が必要だ」とも述べた。
小泉氏は農林部会長を15年から2年間務め、農業の規制改革や農協改革など、安倍政権の「官邸主導」の農政を党側から推進した。
小泉氏は、JAグループなどの組織・団体とのコミュニケーションの重要性を指摘。この一方、「一定の団体などに怒られない、気を遣いながらの判断は、政策を誤る」との考えを示した。
辞任した江藤氏は18日、佐賀市での講演で、「米は買ったことがない。支援者の方々がたくさん米をくださるので、まさに売るほどある。家の食品庫に」などと発言。米価格の上昇で消費者の負担感が増す中、配慮に欠けた発言だとして与野党から批判が相次いだ。
江藤氏は19日に発言を撤回。首相は江藤氏を厳重注意した上で、続投させる方針を示していたが、野党側は不信任案提出などを検討。政府・与党内に交代論が強まっていた。
江藤氏は21日、官邸で首相に辞表提出後、記者団に「一線から身を引くことが、国民にとっていいことだと判断した」と述べた。
辞任した江藤拓農相の後任に小泉進次郎氏が起用された。石破茂首相は米価格の上昇を受け、政府備蓄米放出による価格引き下げや水田政策の見直しに強い意欲を示す。国民的な知名度が高く、閣僚や自民党農林部会長を経験した小泉氏を、自らが目指す政策改革の象徴とする狙いがある。
農政に精通する江藤氏の後任の選定は難航する予測があった。農相や党農林幹部の経験者は、軒並み政府・自民党の重要ポストに就く。一方、失言による辞任という緊急事態を乗り切るには、農林分野と入閣の両方の経験が必要という判断もあったとみられる。
小泉氏は昨年の自民党総裁選で石破氏と戦ったが、発足した石破内閣では選対委員長に就任。2021年の総裁選では共闘している。小泉氏が担っている水産総合調査会長は首相から後継指名を受けるなど、距離の近さが垣間見える。
焦点は改正食料・農業・農村基本法を基盤に、江藤氏らが道筋を描いてきた農政をどう継承、具体化していくかだ。江藤氏は水田政策の見直し方針や食料・農業・農村基本計画の策定、流通不足に対する備蓄米放出といった重要な判断をしてきた。
当面の課題は備蓄米放出を巡る対応だ。首相は一層踏み込んだ対応の検討を指示し、小泉氏も「ゼロベースで考えたい」と呼応した。ただ、計61万トンを見込む放出が、将来的な需給や価格にどう影響を与えるか、冷静な分析も必要だ。
(岡信吾)