[論説]江藤農相の辞任 米政策の停滞許されぬ
自民党佐賀県連が開いた政治資金パーティーの講演で江藤氏は、「支援者の方々がたくさん米をくださるので。まさに売るほどある。家の食品庫に」などと発言した。
政府備蓄米を放出しても店頭価格の上昇が止まらない中、消費者の感情を逆なでした。「配慮が足りなかった」と釈明し、全面撤回したが、担当閣僚として不適切だとの声が与野党から出ていた。石破首相は当初、続投させる意向だったが、参院選への影響を懸念して一転、更迭した。
自民党きっての農政通で、実績もある江藤氏の交代は残念だが、農業の立て直しには国民全体の理解が必要な時だけに、やむを得まい。「政治のけじめ」として辞任で幕引きとするのではなく、米価の安定や、生産基盤の弱体化が進む農業の再建、食料安全保障の確保につなげる契機としなければならない。
農政は、新たな食料・農業・農村基本計画が動き出したばかりだ。新基本法の目玉である食料安全保障の強化に加え、食料自給率の向上、環境調和型農業の推進、担い手育成、農村振興を目指す。国民全体の信頼と協力を得ながら前に進める必要がある。
農水省は、これから5年間を構造改革の集中期間とし、抜本改革を目指す方針だ。水田政策は2027年度から根本的に見直す。自民党の森山裕幹事長はJAグループが開いた食料・農業・地域政策推進全国大会で、「兆円単位の規模の新たな予算が必要」と強調した。財政当局の壁を破るには、米問題を契機とした国民全体の理解が欠かせない。
トランプ米政権との関税交渉も本格化する。赤沢亮正経済再生担当相が訪米し、24日にも3回目の閣僚交渉を行う。米国は、米を含む農畜産物の輸入拡大を迫っており、「農業を自動車の犠牲にしない」とする日本側の一貫した姿勢と交渉力が問われる局面だ。農相の交代が、日本の立場を弱めることのないよう、万全を期す必要がある。
新たな農相には自民党の小泉進次郎前選対委員長が決まり、「米担当大臣だとの思いで取り組みたい」と決意を述べた。農林部会長時代には農業・JA改革に取り組んだだけに、今回も「組織・団体に忖度(そんたく)しない」と明言した。消費者目線だけでなく生産者が手取りを確保でき、担い手が増える農業政策を実現してもらいたい。