葉で光合成をして、根から栄養を取る植物と海藻の大きな違いの一つとして、仮根(かこん)がある。仮根とは、根のように見える器官のことで、体を岩や石、砂などの基物に固定するためのもの。海に流されてしまわないようにつかまるための根であり、そこから栄養を吸い上げる植物とは異なり、主に光合成をして育つのが海藻類だ。
多くの海藻は秋に芽生え、冬に成長し、春から初夏にかけて旬(ピーク)を迎える。山や森林など、地上では目視で確認できる植物の状況や状態と比べ、海藻は海の中に潜らなければそれらを確認することができない。それゆえに、人に気付かれることも少なく、気が付いた頃には減少していた──。そんな海域が日本中に多く存在している。海水温の上昇により、草食性の魚やウニなどの活性が高まって食害を受けたりすることが大きな要因とされている「磯焼け」。数年前まで海藻が生えていた場所が、今は何も生えていない。ちょこっと芽が出たとしてもすぐに食べられてしまう。このように目に見えないところで、大きな海洋問題が起こっているのだ。
山から海に流れる水には、植物プランクトンという山の恵みがあり、それを食す動物プランクトンが集まり、それを食す海洋生物がそこに連なっていく食物連鎖のベースには、海藻も不可欠だ。小さな生き物たちのすみかであり隠れ家でもあり、そもそも卵が産み付けられる場でもある海藻が減ることは、魚が減ってしまうことに比例する。次回は海藻と地球環境にもう少し踏み込んでいきたい。

1979年生まれ。東京都ですし屋「酢飯屋」を経営後、生きものが食べものになるまでを突き詰めるために釣りをし、現在は「すし作家」として海にまつわるさまざまな活動をしている。