[論説]地方鉄道存続の道 物流問題解決の糸口に
1987年に国鉄が分割民営化されてから、JR各社は新幹線などの“ドル箱路線”の収益で、地方のローカル路線の赤字を埋めてきた。ところが、少子高齢化に伴う人口減で利用者が減少していることに加え、新型コロナウイルス禍の外出規制が追い打ちをかけ、黒字路線の収益も減少。地方鉄道の存続に「黄信号」がともっている。
路線の存廃を検討する、自治体や鉄道会社でつくる「再構築協議会」設置の目安は、1キロ当たりの1日乗客数を示す「輸送密度」が1000人未満。国土交通省によると、この輸送密度が1000人を下回る区間は、JR線全体の22%(2020年度)に上る。こうした路線の利用者は、車の運転ができない中高生や高齢者などの「交通弱者」が占める。採算が合わないからといって安易に廃止すべきではない。
中でも、愛媛県宇和島市と高知県四万十町を結ぶJR予土線は、22年度の輸送密度が1日当たり220人と典型的な赤字のローカル線だ。しかし、沿線にある県立北宇和高校の生徒の半数が通学に利用しており、欠かせない交通手段となっている。「駅は地域のシンボルにもなっており、廃止されたら町のにぎわいまで消えてしまう」と住民も危惧する。
路線を維持しようと、沿線で生産された新鮮な農産物などを、新幹線や特急列車に積み込んで消費地まで輸送する貨客混載に取り組む鉄道会社も増えている。トラック運転手の働き方改革に伴う「2024年問題」の解決に向け、地方のローカル線を積極的に利用することが重要だ。鉄道に切り替えることでCO2削減にもつながる。
また、福島、新潟の両県を結ぶJR只見線は、豪雨災害からの復旧に際し、施設と土地を福島県と沿線自治体が保有し、列車はJR東日本が運行する「上下分離方式」を取り入れた。徳島、高知の両県を結ぶ第三セクターの阿佐海岸鉄道は21年、線路と道路の両方を走行できる「デュアル・モード・ビークル(DMV)」車両を世界で初めて導入。住民の利便性向上と観光需要を見込む。
地方の鉄道を残すことは、地方の暮らしを守ることにつながる。農産物を運ぶ貨客混載や利用しやすいダイヤ設定など、環境に優しい鉄道の積極的な活用を考えたい。