[論説]買い物弱者対策 移動販売車支援さらに
高齢化の進展で全国的に、近隣の商店の廃業や自動車運転免許証の自主返上、公共交通機関の廃止などで、行動範囲が制限される高齢者の多くが、買い物弱者になっている。都市部も含め全国的な課題として浮上してきているが、人口減少が続く農山村では顕著だ。
買い物弱者対策は、農水省や経済産業省、総務省、厚生労働省、国土交通省などが、さまざまな視点で取り組む重要課題の一つ。
2022年度の農水省調査では、食料品などを購入できる店舗が地域になく、不便な生活を強いられている買い物弱者を巡り、「対策が必要」との市町村は87%に上った。15年度以降、この比率は増え続けている。
買い物弱者が発生する理由を複数回答で聞くと、「住民の高齢化」(91%)、「地元小売業の廃業」(68%)、「単身世帯の増加」(49%)などが上位に挙がった。
行政が実施する対策は、コミュニティーバスや乗り合いタクシーの運行などへの支援が目立つ。スーパーやNPO法人、JAなどの民間が、宅配や買い物代行、移動販売車の運営といった事業を手がけるケースもあるが、民間が参入していると回答した市町村は3分の2ほどで、縮小傾向にある。
全般的に移動販売車の運営は苦しい。総務省によると「黒字または均衡」の事業者は半分に満たない。農水省も「民間だけでは採算を取るのは難しい」とみる。中山間地や過疎地では、運営費用が確保できず、撤退した事業者も少なくない。
国への要望(複数回答)の7割が「運営費用」、6割が「整備費用」を占めた。農水省では、こうした声を踏まえ、費用の補助や先進事例の発信など、今後も支援していく考えだが、さらに充実する必要がある。
移動販売車を利用する高齢者は「近所に来るので助かる」と歓迎する。買い物だけでなく、販売担当者や集まった住民と会話ができる機会にもなると好評だ。地域の交流の場になることで、住民の孤立も防げる。
移動販売事業は、農山村社会の維持に欠かせないインフラの一つになっている。災害で閉鎖した店舗のカバーなども期待でき、社会貢献的な位置付けからも、移動販売車などの導入に国が積極的に支援していく必要がある。