[論説]豚熱九州で発生 拡大防止へ対策徹底を
豚熱の感染拡大が止まらない。2018年9月、国内で再発生してから、9日で5年。直近では7月に兵庫県で初めて発生するなど、数カ月おきに感染が確認されている。ウイルスに感染した野生イノシシは北は岩手、秋田、西は山口まで広がった。
これまで豚へのワクチンは、イノシシで陽性が出た周辺県で接種を進めていたが、佐賀ではイノシシよりも先に養豚場で発生が見つかった。ワクチンを接種していなかったため、殺処分と並行してワクチン導入の議論が進んだ。
農水省は1日、家畜衛生部会牛豚等疾病小委員会で、九州全7県の飼養豚にワクチンを接種する方針を示し、了承された。九州は全国で飼養する豚の3割に当たる280万頭を、1060戸で管理する(2月現在)。九州は鹿児島、宮崎と養豚の大産地があるだけに、農場に出入りする家畜や飼料、資材など運搬車両を介した感染拡大にこれまで以上に厳重警戒をしなくてはならない。
発生確認後、課題となるのが、埋却地をどう確保するかだ。10年に宮崎県で起きた口蹄疫(こうていえき)では、感染した牛や豚約30万頭を埋却するために98ヘクタールを要した。高病原性鳥インフルエンザの季節も迫り、感染した家畜の埋却地確保は、農家の悩みの種となっている。
このため、ワクチンを接種すれば、飼養豚への感染リスクは低減し、万一発生した場合でも周辺農場の移動・搬出制限区域を設けずに営農を継続できる。何よりも、農場密集地域で多発を阻止できる可能性が高まる。
豚熱の発生状況によっては今後、埋設地の確保が迫られることから、ワクチンと打ち手の確保を急いでほしい。家畜疾病対策は初動が肝心。迅速な封じ込めにつなげよう。
同省家畜疾病小委で示された、豚の飼養衛生管理基準の順守状況によると、南九州の大産地で、畜舎専用の衣服・靴の使用や防鳥ネットの設置など、半数近くの農場で守られていない項目があった。「ワクチンありき」とならないよう、いま一度、足元の衛生管理を確認したい。
今後、ウイルスの遺伝子解析が進めば、国内に既にある株か、新たに侵入した株かが判明する。
中国などアジア各地で感染が相次ぐ「アフリカ豚熱」への警戒も、引き続き欠かせない。