[論説]所有者不明の農地 登記義務化説明十分に
所有者不明農地とは、不動産登記を確認しても所有者が分からない農地、所有者は分かっても所在不明で連絡も取れない農地を指す。耕地面積435万ヘクタール(2021年度)のうち103万ヘクタールを占め、青森県の面積より広い。登記制度のある先進国の中では突出して多く、農業基盤がいかにもろいかを示している。
政府は、こうした農地が担い手への集約や、地域で農地の利用を決める「地域計画」作りを妨げているとして、来年4月から全ての土地の相続登記を過去までさかのぼって義務化する。所管する法務省は、財産分与の協議や登記を急ぐよう求め、違反した場合は10万円以下の過料を科す場合があると警告した。
だが、義務化はあまりにも性急過ぎる。国の管理を強化するだけでは問題は解決しないし、登記の手続きをするにも負担が生じる。今回の義務化は、農家にとって「寝耳に水」だ。まずは義務化について丁寧に説明し、理解を促すことが先決だ。
所有者不明の農地が増えた背景には、1952年制定の農地法の行き詰まりがある。同法は、連合国軍総司令部(GHQ)が進めた農地解放が土台となっており、家族経営を柱とした「耕作者主義」を保障する立て付けになっている。このため農地を相続しない、相続しても放棄する、という事態を想定してつくられていない。戦後の食料難を支えた農地が「所有」から「利用」に転換。人口は都市に集中し、農村の衰退は農地問題となって表れている。
農水省は「担い手への農地集約・集積を急がなければならない」とするが、利用を促すはずの農地バンクを通じた農地の貸借手続きが、所有者不明農地の存在で進んでいない。何世代にもわたり登記されていない場合は、相続権利者の特定はほぼ不可能だ。権利者の相続放棄が分かった場合でも、裁判所に権利者全員の確認が必要で、農業委員会の負荷は増している。政府は相続放棄対策として、土地を国庫に帰属させる新制度を4月に導入したが、複数の農業委員会によると、管理費の高さから多くが敬遠している。
農地は食料安全保障の基盤であり、国民の共有財産だ。農家は登記で所有権を明確にしなければならないが、登記の義務化に踏み切る前に、政府による丁寧な説明と、十分な周知を求めたい。