[論説]農村価値創生へ交付金 地方発 取り組み促そう
同交付金は、全国町村会が2014年に提唱した。補助金ではなく自治体が地域の実態を踏まえ、主体性を発揮して独自の施策を行うことができ、農村の維持や価値の創生につなげるものだ。厳格な要件がある補助金ではなく、自由度の高い交付金を活用して自治体が発案する仕組みだ。全国町村会は政府は政策の大枠と総額を決定し、客観性に配慮しながら適切に自治体に配分するよう提起する。
農村の役割は、農業の生産基盤を維持し、食料安全保障に貢献するだけではない。農村があることで人々の暮らしが営まれる。その結果、田畑は維持され、山の荒廃も防げる。水田は雨水を一時的に貯留し、河川の洪水や土砂崩れを防ぎ、下流域に暮らす住民の命を守る。多様な生き物のすみかにもなる。農業だけではなく教育、癒やし、伝統文化、美しい田園景観を保全する場としても、農村の持つ多面的価値を再評価すべきだ。
消費者は、今年も新米のおいしさを味わうことができる。旅行をすれば、棚田や牛の放牧風景、果樹園に魅了される。祭りでは、その土地の歴史や伝統に触れることもできる。
こうした農村の恩恵を受け取るのが、当たり前のように考えている人は多い。だが、それは違う。農村で暮らす人がいるからこそ、恵みを享受できることを国民に再認識してもらう必要がある。
観光名所だけでなく、田園風景を見たいと農村を訪れるインバウンド(訪日外国人)も多い。外国人は、里山の風景に日本の美しさを感じ取る。農村の価値は、世界に誇れる日本の財産といえる。
だが、人口減少や担い手不足でこうした農村が危機に直面している。各地で祭りが消え、農地に加えて里山の維持が難しくなり、鳥獣害に悩まされる産地は多い。
こうした中、全国町村会が提起した農村価値創生交付金は、国が使い道を決めるのではなく、自治体自らが今後の対策を考えるものであり、基本法を見直す上で貴重な考えだ。政府は現場の提起を踏まえ、具現化を検討してほしい。
政府が進める地方創生の主役は、国ではなく地方のはずだ。農業・農村政策を自治体自ら企画立案することこそ地方創生につながる。
基本法の中に、農村の多様な価値をどう位置付けるのか、注視したい。