[論説]未利用品種の活用 海外で稼ぐ体制整えよ
「シャインマスカット」など日本で育成された品種の海外への不正流出が相次ぐ中、いかに知的財産を守るかが問われている。そうした中、国が進めようとしているのが、海外の産地とのライセンス契約だ。現地の農業法人などに栽培を認める代わりに許諾料を徴収し、無断栽培や販売がないかも監視してもらう仕組み。知的財産を保護できる他、許諾料を国内の産地振興に活用できるメリットがある。
注目したいのが、未利用品種だ。国内での品種登録から一定期間を過ぎれば、国際ルール上、海外で品種登録ができない。しかし、品種登録されていない未利用品種であれば海外で品種登録ができ、無断栽培・販売された場合には対抗措置を取れる。
農水省によると、各都道府県が育成したものの、試験栽培・販売時に評価が得られず、品種登録に至らなかった未利用品種は「相当数ある」(知的財産課)という。中には海外で評価される“宝”が眠っているかもしれない。
全国に先駆け未利用品種活用へ動き出したのは、愛媛県だ。県は11月下旬、品種登録されなかった同県育成のかんきつ品種を米国で商業栽培すると発表した。米国の法人に栽培を認め、許諾料を徴収する。流通・販売を認めるのは米国内だけで、日本への逆輸入は禁止する。
県によると、得られた許諾料は、今後の新品種の開発経費や生産振興に活用する方針だ。商業栽培は2032年度から始まるが、海外に活路を見いだす産地発の挑戦となる。軌道に乗せて、他の産地への広がりを期待したい。
重要なのは、信頼できる契約パートナーを見つけることだ。現地での無断栽培がないか、パートナーに監視してもらう必要があるからだ。確実に売り込むには、海外で需要が見込めるか、事前の市場調査も必要。ただ、海外に拠点のない都道府県が、相手国のパートナー探しや市場調査まで行うのは容易ではない。
期待したいのは、農研機構やJA全農などが3月、立ち上げた「育成者権管理機関支援事業実施協議会」だ。現在は任意組織だが、数年後に法人化を目指すという。法人となれば、育成者権者から知的財産権の管理を全面的に任され、パートナー探しや市場調査もできる。法人化を急ぎ、産地の挑戦に応える万全な体制を整えてほしい。