[論説]畜産経営の多角化支援 情報収集の体制整えよ
全日畜の事業は、2022年度から日本中央競馬会の助成を受けて進めてきた。全国の畜産経営体へのアンケートや意見交換を通じ、経営多角化を成功させるためのノウハウ、失敗しないための留意点などを調べている。指針は3月末までにまとめる予定だ。
生産資材の高騰が長引いていることもあり、経営に新たな部門を設けるには、慎重さも求められる。これは畜産に限らず、農業全体でいえる。経営者の判断だけでなく、それを支援・助言するJAや普及指導センター、市町村行政の指導力も求められる。
多角化は、かつては「6次化」といわれた。一方で農水省は、22年度から「6次化」を「農山漁村発イノベーション」と呼ぶようになった。「6次化」を発展させた形だとしている。農業経営に商工業を取り込むだけでなく、地域の文化や歴史、景観など、幅広い地域資源と農業を結び付け、農業・農産物の付加価値を高めていく考えで、「地域」がキーワードとなる。
全日畜のアンケートでは63%の経営者が、多角化を始めた目的は「多くの利益を上げるため」と答えたが、「地域の活性化に貢献するため」を挙げた経営者も37%いた。実際に多角化に踏み切り、利益以外に感じられたメリットとしては、55%が「地域の活性化に貢献できた」と回答、地域振興にもつながっている。
今後、経営の多角化を進めるには、他業種を含めた「地域」の視点が欠かせない。経営多角化を農村のイノベーションに導くには、農業以外の情報を得ることが重要だ。
だが実際には、同じ都道府県の農業部局でありながら、普及指導員に土地改良区に関連した補助事業の情報が浸透せず、事業を活用できなかったという話もある。まして商工業者が利用できる経産省の中小企業向け事業を、農業分野の指導者が知っているかは、はなはだ疑問である。
普及指導員の組織である全国農業改良普及支援協会では、社会保険労務士、中小企業診断士といった、いわゆる「士業」の利用など、人材のアウトソーシング(外部委託)を勧める。JAの営農指導員、普及センターの普及指導員ら個人による情報収集力も必要だが、地域内外の幅広い情報収集に限界もある。
他業種も含めた幅広い情報の収集体制を築くことが、経営多角化の支援につながる。