[論説]増える鹿被害 ジビエ給食を進めよう
近年、イノシシや猿、鳥による農業被害は減少しているが、鹿の被害は増え続けている。鹿による農産物などの被害総額(2022年度)は、前年度と比べ4億円増の約65億円に上る。捕獲数も72万5000頭(21年度)と増加基調にあり、温暖化や人口減少で鹿の生活圏が急拡大していることがうかがえる。
鹿の捕獲が進む一方、ほとんどが廃棄され、ジビエに向けられるのは全体の13%にとどまる。捕獲と活用の実態がかみ合っていない。地域に加工施設や解体技術を持つ人がいないためで、捕獲しても「廃棄物」として多くを処分せざるを得ない。動物たちの命を無駄にせず、捕獲と活用の両輪から進める必要がある。
ジビエは外食や小売り、ペットフードなどさまざまな需要があり、近年では、学校給食に鹿やイノシシの肉を提供する小中学校が増えている。農水省によると、ジビエ給食を導入する小中学校は23道府県933校(22年度)と5年前と比べて2・5倍に増え、過去最多を更新した。
調査では、ジビエを活用する学校の8割が西日本に集中し、地域によって偏りが生じている。西日本では野生動物との生活圏が近い中山間地が多く、被害防止に向けた捕獲・活用が進むが、東日本は東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で一部地域で出荷制限が続いたことで、ジビエが広がらない背景がある。
ジビエ給食を全国的な取り組みとするために、先進地の事例やノウハウを横展開して、消費の裾野を広げよう。
大分県では、176校(小中学校の46%)がジビエ給食に取り組む。県は18年、給食用にジビエを購入する際の独自の補助制度を新設した。県内でいち早くジビエ給食を始めた中津市は、鹿の捕獲から食肉加工、流通、給食調理まで地域一体で取り組む。「鹿肉カレー」など子どもが食べやすいメニュー開発も進んでいるという。県は「地域の農林水産業や鳥獣被害を考え、小さい頃から食べることで身近な食材と感じてもらいたい」(森との共生推進室)と期待する。
国会で審議が進む食料・農業・農村基本法改正案でも第48条「鳥獣害の対策」を新たに設け、「捕獲した鳥獣の食品等としての利用の推進」を掲げる。政府は鳥獣害の低減とジビエの消費拡大へ取り組みを一層、加速すべきだ。