[論説]松本食肉施設の移転 新施設稼働まで継続を
同施設を運営するのは、JA全農長野子会社の長野県食肉公社。市はもともと、市営の食肉処理場として営業していたが1964年、現在地に移転して施設を整備。98年から同公社が運営を始めた。
市の退去要求は、同施設に向かい合うごみ焼却施設「松本クリーンセンター」の移設計画が影響している。老朽化により新施設を建てるため2021年、公社に無償で貸している食肉処理施設の土地を25年3月までに返還するよう要求。その後、返還期限を「27年3月」に見直した。
県やJA長野県グループ、松本市などが参加する「松本食肉処理施設整備支援検討会」で移転候補地を数カ所に絞ったがそれぞれに課題があり、現時点でまだ何も決まっていない。設計・建設に4年ほどかかるため、全農長野は「返還期限に新施設稼働は間に合わない。27年3月の返還は物理的に困難だ」とする。
県内に食肉処理施設は同施設を含めて2カ所あるが、もう一方には受け入れの余地がない。移転先が決まらないまま現施設が閉鎖された場合、食肉処理業務に空白期間が生まれることが最大の問題だ。その影響で、①加工技術を持つ人材が離職し戻らない②県外処理で年間数千万円規模の輸送料が新たに発生し、販売価格引き上げなどの事態を引き起こす――恐れがある。
同施設は県民に食肉を安定供給する拠点で、公共インフラと言える。長野県は「おいしい信州ふーど」キャンペーンや食料の県産への置き換え、有機農産物の学校給食・社員食堂での利用推進など、県を挙げて地産地消の取り組みを進めている。松本市にも登録制度「地産地消推進の店」がある。飲食店で原材料となる「食肉」をないがしろにすべきではない。
JA長野県グループは、新たな食肉処理施設の稼働まで現行施設の継続を求めて、市への要請活動と併せ署名活動を展開。消費者や生産者、JA役職員ら8万7208人(2月15日時点)から賛同を得ている。2月下旬以降、松本市の臥雲義尚市長に署名を提出する。3月には市長選も控えている。
市側は方針を決めかねているが、署名に託した人たちの声を受け止めてほしい。県産食肉を安定的に食卓に届けるため、早期の移転先決定と新施設稼働までの現施設継続を決断すべきだ。