[論説]変わる大学入試問題 食と農の教育機会増やせ
1月に行われた共通テストの現代社会では、地方都市に住む学生が人口減少で地域社会の維持が難しくなると考えて「地域づくり」に関心を持つ、という設定で出題された。その中で「関係人口」が地域にもたらす効果について、①地域資源の再発見②専門的な能力の移転③地域社会の運営体制の変化――を挙げ、それぞれに当てはまる内容を選ぶ。都市と農村を行き来する「関係人口」という、新しいキーワードが出題されたことに注目したい。
名古屋大学の2次試験の地理では、都市に残る農地を市民農園として貸し出す理由や、担い手不足に悩む地域の活性化についてどのような対策が取られているかや、「限界集落」という言葉の意味を尋ねる設問があった。これらは論述式の試験で、受験生がどのように解答したのか興味深い。地理は農林水産業分野からの出題が多く、気候や地形を生かした地場産業とのつながりが深い。
24年の共通テストなど大学入試の傾向は、「関係人口」や「限界集落」の内容を正しく理解していなければ、答えることはできない内容だ。
日頃から新聞やニュースなどの時事問題に気を配り、高校の授業の中でも、農業や農村が抱えている問題に関心を持ってもらう仕掛けが必要だ。教員も農業や農村について教科書通りに教えるだけではなく、リアルな体験や知識を伝えられるような資質が求められる。
農業分野と接点が多い地歴公民では近年、情報通信技術(ICT)を活用して授業をする高校もある。生徒はデジタル媒体を使うことで教室にいながら農業を学べる。
ただ、最も有効なのは、現地調査(フィールドワーク)だ。山口県立周防大島高校は、フィールドワークで町の課題解決を考える授業を展開、特産の「山口大島みかん」をPRする動画を制作した。現地に足を運び、人と交流し、古老に学ぶ。こうした積み重ねを大事にしたい。
農業や農村について学ぶことは、都市が抱える問題に向き合うことと等しい。都市と農村は表裏一体だからだ。高校の授業でICTの活用に加え、フィールドワークを通して教員も生徒も農業、農村に関心を持つ機会を増やしたい。大学入試にとどまらず、食と農業を学校教育に積極的に取り入れるべきではないか。