[論説]基本法に「環境調和」 多面的機能の再評価を
現行の基本法は「食料の安定供給」「多面的機能の発揮」「農業の持続的な発展」「農村の振興」が柱。改正案は「多面的機能の発揮」を「環境と調和の取れた食料システムの確立」に置き換え、条文には「食料の供給の各段階において環境に負荷を与える側面がある」ことを明記した。みどりの食料システム戦略を基本法に組み込む格好だ。
温暖化に伴う気候変動で農業被害は年々大きくなる。農業由来の温室効果ガスなどマイナス面の改善も通じ、将来にわたって持続可能な農業を目指そうとする、みどり戦略の方向性は“農政の憲法”の柱としてもふさわしい。
ただ、「多面的機能の発揮」は後退した感がある。多面的機能は国土の保全、水源のかん養、環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承など農業が果たすプラスの役割だ。改正案でも多面的機能を適切、十分に発揮することをうたうが、「環境への負荷の低減が図られつつ」というただし書きが付いた。
多面的機能の扱いには、3月の農水省審議会でも指摘が上がっている。作成中の2023年度の食料・農業・農村白書は、基本法改正を先取りする内容で、多面的機能は「農村の振興」の章で触れるにとどまる。委員からは「(基本法の)基本理念として多面的機能がまだ大事な要素としてある」と、位置付けの弱さを疑問視する声が出た。
多面的機能の重要性を、あらためて評価すべきではないか。自然災害が増える中で、水田や畑が持つ洪水や土砂崩れの防止、気候緩和などの機能への期待は、むしろ高まっているはずだ。熊本県では阿蘇の山々と水田が豊富な地下水をかん養する。半導体関連企業が進出したように、経済部門も農業の多面的機能から大きな便益を受けている。
多面的機能の発揮を支える政策の充実を求めたい。現状は日本型直接支払制度があるが、内容は十分か。一方で同省は、環境負荷に着目した対策を強めていく。負荷軽減を補助金の支給要件にする仕組みで、規制色が強くなり過ぎないようにすべきだ。
欧州では環境規制に農民が反発し、各地でデモが多発している。坂本哲志農相は「欧州の作付け制限と、日本の環境との調和は内容が全く違う」とするが、丁寧な運用が必要だ。環境規制を強め過ぎて生産が落ち込めば、食料安全保障とも相いれない。