[論説]農泊とインバウンド 小さな気配りで誘客を
農水省は2月、21府県で28の「農泊インバウンド受入促進重点地域」を選定。農泊に取り組む621地域のうち、外国人客の一層の受け入れを目指す55地域の中から選んだ。今後は40地域まで増やし、農山村を訪れる外国人客の数を増やす方針だ。
同省によると22年度の農泊客数は、前年度比36%増の610万8000人。コロナ禍前の19年度を上回って過去最高となった。一方で農泊にやってくる外国人客の割合は、全体の2・5%の15万4000人と、コロナ禍前の4割にとどまる。今後、農泊に外国人客をどう呼び込むかが課題となっている。
同省は25年度までに、農泊客の数を国内外含めて700万人とし、その1割に当たる70万人を外国人客とする目標を掲げる。そのため24年度には83億8900万円を計上し、農泊推進事業を進める。ソフト面では、ワークショップの開催や食事メニューの開発、宿泊予約システムなどの導入を支援。ハード面は古民家などを活用した滞在施設や体験交流、レストランの整備などを支援する計画だ。
ただ、外国人客を農村に引きつけるのは、古民家などの施設だけではない。農村ならではの伝統食や祭り、歴史、風習など独自の文化にこそ光を当てたい。
奈良県川上村の農泊では外国人客からの要望で、都会から移住した地域おこし協力隊の若者との交流会が開かれた。農泊主が飼養する鶏の産みたて卵や、地元の野菜などで作った鍋料理を共に味わいながら、地元の情報だけではなく、外国人客が農泊に何を求めているのかを直接、聞けて好評だった。異文化交流こそ、農山村の新たな価値に気付くチャンスとなる。
特別な仕掛けが必要なわけではない。心に響くのはちょっとした気配りだ。東京都内の大手居酒屋では、歓迎ムードを表す横断幕を無料で提供する。中国人観光客に向けて「歓迎! よろしくお願いします」という横断幕を掲げ、おもてなしの心を演出。観光客は感激し、横断幕とともに写真を撮影し、スマホで発信した。そうした小さな工夫が、誘客につながっていく。
農泊の醍醐味(だいごみ)は異文化交流にある。政府はインフラ整備だけではなく、農村に眠る有形無形の価値を引き出す支援にも一層、力を入れてほしい。