[論説]不動産登記法の施行 「所有者不明」解消急げ
同法を所管する法務省によると、相続しても登記されていない土地と、登記されてはいるが所有者の消息が分からない土地を「所有者不明土地」と呼ぶ。その総面積は、九州本島(370万ヘクタール)を上回る410万ヘクタールに及び、年々増加しているという。
法改正はこうした異常な事態を解消するのが狙いで、法施行後に相続した不動産は3年以内の登記を、施行前に相続した不動産は2027年3月までの登記をそれぞれ義務付けた。病気などやむを得ない事情を除き、これら期間内に登記しなければ10万円以下の過料(行政罰)を科す。
ただし、遺産分割協議が3年以上に及んだ場合、相続人が法務局に申告することで義務を果たすとし、相続登記は協議後でも認める。
戦後、家族経営を主体とした農業は、親から子へと農地が受け継がれてきた。法制度上、宅地と比べて流動性も低いため、農家が「登記の必要性」を感じる場面は少なかった。今回の義務化を踏まえ、自らが耕す農地の所有権を改めて確認し、必要に応じ手続きを行う機会としたい。
ただ、自らで登記をするのは時間も手間も知識も必要だ。専門家に登記の代行を頼んだ場合、関東の司法書士は「農地1筆当たり数万円」というが、全国的な統一基準はなく、司法書士や地域によってまちまちだという。国は引き続き登記義務化を周知する方針だが、登記代行にかかわる料金体系の公平・透明性も不可欠となる。
政府は登記義務化に先立ち農地法と農地バンク法を改正し、所有者不明農地の利活用を進めようと昨年4月から行政による手続きを簡素化し、担い手が農地を借りられる借地権期間を最大20年から40年に延長した。農水省は両法の改正から1年を機に全国を調査し、効果を把握する考えだが、現時点では利活用が進んだとの情報は乏しい。
一方、昨年4月に導入した相続土地国庫帰属制度は、2月末時点の申請は1761件で、このうち農地は最多の670件(約4割)を占めた。
首都圏では地価が軒並み上がり、新築マンションの平均価格が1億円を超えるなど“不動産バブルの再来”に沸く。その陰で所有者不明の土地は増え続けていく。
食料安全保障の基盤となる農地をどう守るのか、政府の覚悟が問われている。