[論説]酪農家の戸数減 国を挙げて離農を防げ
4、5月は酪農家の離農が増える時期となる。2023年は、2月末が1万1012戸だったが、5月末には1万729戸と、3カ月間で283戸減った。年間の離農戸数は平均月56戸で、年度をまたいだこの時期に集中している。
昨年と同様のペースで離農が進めば、5月末までに1万戸を割りかねない。際限のない離農を食い止めなければ、国産牛乳・乳製品を学校給食や食卓などで味わうことができなくなる。離農の増加は国民の食生活に直結する。
20年以降、酪農を取り巻く環境は厳しい状況が続く。新型コロナ禍による生乳需要の減少をはじめ、ウクライナ危機や円安に伴う輸入飼料価格の高騰、子牛や廃用牛などの市場価格の下落と、産地の努力だけでは解決できない問題が山積する。生産者も消費者も納得できる適正価格の実現、輸入に左右されない国産飼料の生産拡大、政府による経営安定対策、直接支払いの充実が求められている。
コスト上昇分を販売価格に転嫁しようと、指定団体はこの2年足らずで1キロ当たりの飲用向け乳価を計20円引き上げた。だが「値上げで消費が減るかもしれない」という不安が常につきまとう。将来にわたって酪農を続けていける価格を設定できない怒りや失望が産地側に募っている。
続けられたはずの酪農に見切りを付けた例は多い。北海道内のJA組合長は「経営が手堅い人から離農していった。地域の生産基盤が目に見えて弱まった」と指摘する。
生産基盤が弱体化すれば、その影響は地域、国民全体に及ぶ。食料自給率も一層、低下する。猛暑の影響で昨年9月には、各指定団体の受託乳量は1割ほど落ち込み、生乳が足りない状況に陥った。1億2500万人が飲む牛乳をわずか1万戸の酪農家が支えている。綱渡りのような生産基盤では離農は止まらず、後継ぎも生まれない。地域は成り立たず、疲弊する一方だ。
農業は、国民の命を支える尊い仕事だ。食料・農業・農村基本法改正に向けた国会審議が始まったが、「国を挙げて農業を支える」という岸田首相自らの強いリーダーシップとメッセージが必要だ。
現在、政府主導で適正な価格形成に向けた議論が進むが、離農を食い止め、持続可能な酪農を展望できる制度設計を強く求めたい。