[論説]有機農業の推進 学校給食から始めよう
世界で有機農業が拡大する中、日本での取り組みは遅れている。国内の有機農業の面積は徐々に増えてはいるものの、全耕地の0・6%(2万6600ヘクタール)に過ぎない。生産量のうち米や麦、果実は0・1%、野菜は0・36%と、1%にも満たない。
農水省は、「みどりの食料システム戦略」で2030年に有機農業の面積を6万3000ヘクタールに増やし、50年までには、全耕地の25%に当たる100万ヘクタールに増やす計画だ。国会審議が始まった食料・農業・農村基本法改正案でも「環境との調和のとれた食料システム」を盛り込んだ。
環境調和に向けた政府の姿勢は評価できるが、本腰を入れて有機農業を広めるためには、再生産に見合う適正価格の実現や安定した供給先の確保が欠かせない。注目したいのが学校給食だ。
自主財源で給食費を無償化した千葉県いすみ市は、JAいすみと連携し、学校給食用米を全量、有機米に変えた。生産者手取りで60キロ(玄米)2万円以上を実現したことで現場の意欲が高まり、有機米の生産は市内の水田(約1800ヘクタール)の2%に拡大した。
同省によると、学校給食に有機食材を使っている市町村は20年度は123だったが、22年度には193まで増えた。それでも全市町村のおよそ10分の1に過ぎない。
学校給食での食材選定や給食費の設定は、市町村に委ねられている。財政上の理由などから有機食材への切り替えに消極的な市町村を後押しする積極的な支援が重要だ。韓国やフランスなどでは、学校給食に有機農産物を使うことを政府が支援したことで有機給食が広がった。
同省は、地域ぐるみで有機農業に取り組む市町村を「オーガニックビレッジ」として支援している。現在は93(2月現在)で、25年までに100を目指すとしているが、もっと増やす必要がある。
安定的に有機食材を供給するためには、慣行農業から有機農業に切り替える農家を技術、資金面の両面から支えることが重要だ。生産現場との話し合いの時間や労力はかかるが、食育につながり、地域農業への愛着も深まる。
秋田県立大学特別研究員の谷口吉光さんは「有機給食は、農村と都市、現代社会を変えていく起爆剤にもなる」と指摘する。有機給食の支援を強化すべきだ。