[論説]基本法改正へ高い関心 国民納得の具体像示せ
日本農業新聞「農家の特報班」によるアンケートで、回答者の94%を占める119人が基本法見直しに「関心あり」と回答した。無作為抽出の世論調査とは異なるが、農家やJA役職員など農業関係者だけでなく、会社員や自営業など多様な層がLINEで回答しており、着目したい。
農業に直接、関わりのない職業属性に限った回答でも、全体の92%が基本法見直しに「関心あり」と回答した。食料の多くを輸入に依存し、農業を担う人材が不足している現状に対しても「コロナ禍でさらに危惧を感じた」(30代専業主婦)、「若い世代の力が必要」(40代会社員)と懸念する声が寄せられた。農業に直接、関わりがなくても、食料の安定供給や農業の現状に危機感を持つ消費者は確実にいる。
一方で、「人件費などの高騰に農産物取引価格は全く追い付いていない」(40代果樹農家)という声もあり、ウクライナ危機から2年が過ぎてもなお、農産物の価格転嫁が進んでいないことを物語る。
生産コストの高騰に苦しむ農業現場にとって、農畜産物の適正な価格形成を実現するには、食や農に関心を寄せる消費者の存在が欠かせない。関心を寄せることからさらに踏み込んで、適正な価格で国産の農畜産物を「買い支える」という行動変容までつなげることが重要となる。
半面、「消費者の行動変容を促しても、国民所得が向上しない限り徒労に終わる」(50代兼業農家)という懸念もある。大企業は春闘以来、賃上げが相次ぐが、中小企業や家族経営の農家を含む個人事業主など、国民全体の所得が向上しない限り、価格転嫁への理解が進まず、行動変容を広げていくのも難しくなる。
適正な価格形成は、基本法改正案の柱の一つだ。岸田文雄首相は、改正案の国会審議で、恒常的なコストを考慮した価格形成について言及し、「法制化も視野に検討していく」と表明した。生産現場が納得できる適正な価格形成に向け、制度の構築だけでなく、国民の所得水準をどう高めるかという点も、具体的な道筋を示してほしい。直接支払いの拡充も待ったなしだ。
野党議員からは、価格転嫁に加え、所得補償など直接的な支援を求める声も出ている。国民の食を支える農業をこれ以上、衰退させてはならない。農業の未来に展望が開ける具体像を示してほしい。