[論説]農機の「特別教育」義務化 実態踏まえた仕組みを
特別教育は、雇用する労働者が危険な業務に就く前に安全対策を学ぶもの。労働安全衛生法に基づき、雇用主に実施を義務付けている。既に義務化されている建設用や林業用の機械では、雇用主に代わって機械メーカーや業界団体が、講習施設を備えて実施している場合が多い。例えば、フォークリフト(最大荷重1トン未満)は、機械の構造や関係法令などの座学講習が6時間、走行や荷役など6時間の実技講習が必要となる。
義務化に向けた議論を進めているのは、同省が2月に設置した有識者による「農業機械の安全対策に関する検討会」。特別教育の候補に挙がっているのは、乗用型トラクター、コンバイン、スピードスプレヤー、農用高所作業機、農用運搬車の5種類だ。
農業法人などから農機の使用実態について聞き取りを進めているが、いつまでに結論を出すかは今後、詰める。雇用主に対し、シートベルトなどの安全装備が整った農機の使用や点検などを義務付ける是非についても議論する。
背景にあるのが、農作業事故による死者の多さだ。直近2022年の事故死は238人に上り、うち農機が関わるものが最多の64%(152人)を占めた。農業従事者10万人当たりの死者数は11・1人と過去最多で、全産業平均(1・2人)と比べて、いかに事故が多発しているかが分かる。検討会は、農機の安全確保について「十分な対策が講じられているとは言えない状況にある」と指摘した。
天候の急な変化や経営などの不安でゆとりが持てず、事故につながるケースは少なくない。特別教育の義務化は、労働者の安全を確保する上でも重要な検討課題だ。その上で配慮が必要なのは、農業は他産業と違い、家族経営が中心であること。こうした実態も踏まえてほしい。
特別教育は雇用された労働者が対象だが、農業は機械作業を受託したり、他の農家と協業したりなど多様な働き方がある。どういった場合が教育の対象になるのか、明確化することも求められる。
高齢化が進み、人手不足が恒常的な課題となる中、特別教育の義務化に雇用主や労働者が円滑に対応できる仕組みが必要だ。学科や実技を実施する講習施設を市町村やJA単位で設けたり、農繁期は避けたりするなど、現場の実態を踏まえた検討を求めたい。