[論説]22年農業総産出額 国産回帰の潮流生かせ
農業総産出額は、品目別の生産量に農家の庭先販売価格をかけて算出する。政府の助成金などは含まれず、出荷・販売で得た産地の収入を指す。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった22年の特徴は、米や野菜、豚や鶏の価格が上昇し、4年ぶりに産出額が9兆円を突破したことだ。
一方、輸入に依存する肥料や飼料などの生産資材価格は軒並み上昇し、肝心の農業所得は落ち込んだ。今もこの傾向が続き、高齢化が進む産地をどう立て直すかが大きな課題となっている。
品目別にみると、産出額が大きく伸びたのが果実だ。日本農業新聞が上位50品目で、22年と12年を比べたところ「シャインマスカット」がけん引するブドウが12年比の78%増となり、桃は48%増、イチゴは29%増、リンゴとサクランボが各28%増となった。いずれも高齢化などで供給量が減り、単価高となったのが要因だ。
果実の生産は、軌道に乗るまでに時間がかかり、経営継承は他品目より難しい。一方で国産果実はニーズが高く、今の産地をどう維持し、発展させていくかが課題となる。所得の確保とともに、担い手の育成は待ったなしだ。
野菜は、タマネギが12年比で67%増、サツマイモ、ブロッコリーが各31%増となった。サツマイモは焼き芋需要が堅調で高値で推移。ブロッコリーも栄養価が高く、弁当などに使いやすいことから消費者ニーズが高い。26年度には野菜生産出荷安定法に基づく「指定野菜」に加わるため、今後も生産拡大は続きそうだ。こうした傾向を捉え、産地づくりにつなげよう。
農水省は24年度、加工・業務用を中心に、輸入に依存する野菜の国産シェア奪還を目指すプロジェクトを立ち上げる。国産比率を高め、産出額、所得増大の契機としたい。
課題は飼料高が続く畜産だ。肉用牛の産出額は12年比で52%増、ブロイラーは37%増、鶏卵が33%増、豚が25%増となったが、飼料高のため経営は苦戦している。
輸入に依存する穀物などは、円安や世界情勢の悪化で、安定的に調達できるかは不透明だ。コンビニ最大手のセブン―イレブン・ジャパンは、今春から麺類全品を国産小麦に切り替えるなど、国産回帰の傾向は強まっている。安定的な調達なら国産が優位だ。危機を好機に変えよう。