[論説]迫る衆院3補選 農業再生ビジョン示せ
衆院3補選は、自民党派閥の政治資金を巡る事件後、初めての国政選挙となる。自民が東京15区と長崎3区で独自候補の擁立を見送ったため、島根1区が唯一の与野党対決となった。
岸田首相は衆院政治倫理審査会に現職の総理大臣として初めて出席し、政治不信からの回復の先頭に立つと異例の決意を示した。自民は党紀委員会で、安倍派と二階派の議員ら39人の処分を決定した。
参院でも、衆院と同様に「政治改革に関する特別委員会」での議論が始まる予定だ。政治資金規正法改正をどのように行うかが焦点となるが、自民党と野党の主張には隔たりがあり、着地点は見いだせず、国民の政治不信は払しょくできていない。
一方、農業を巡る議論も正念場を迎えている。食料・農業・農村基本法改正案は19日に衆院を通過し、26日にも参院での審議が始まる。農家の関心が高い農畜産物の価格転嫁について、政府は食料の価格形成の法制化などに前向きな姿勢を示しているが、価格転嫁が保証されるわけではない。価格転嫁の手法についても、政府はあいまいな答弁を繰り返す場面が目立つ。
基本法改正案の審議は、改正後の新たな食料・農業・農村基本計画の策定に大きな影響を与える。基本計画は施策を伴う具体策を示すもので、食料安全保障の確立に向けて十分な財源を確保できるのかが焦点となる。国民の命を支える食をどう確保するのか。国家100年の大計を見据え、骨太の議論を尽くすべきだ。
衆院3補選を目前に控え、各候補者は遊説などで走り回っている。選挙カーが農村を訪れれば、作業の手を休めて候補者に手を振る農家の姿はほとんど見かけなくなった。場所によっては、雑草が生い茂る休耕地や空き家だらけの集落が広がる。候補者は選挙カーの窓越しから、農産物の貿易自由化の果てに荒廃が進んだ農業・農村の現実を、肌身で感じていることだろう。
基本法改正案では「多様な農業者」の確保や、農村政策の重要性も明記された。選挙戦は、各地の現状や課題に政治はどう向き合うのか、問われる場でもある。有権者の声に丁寧に声を傾け、現場から基本法改正案を直視し、新たな計画策定につなげることが重要だ。産業政策と地域政策は農政の両輪という原点に立ち返るべきだ。農家の負託を重く受け止めてほしい。