[論説]基本法改正案参院へ 党派を超え議論深めよ
「農政の憲法」を巡る国会審議は、折り返し地点を迎えた。改正案は3月26日の衆院本会議で審議入りし、農林水産委員会での審議時間は約31時間に及んだ。特に丁寧な審議が必要とされる「重要広範議案」の目安とされる20時間は超えたものの、過去の農水関係の重要広範議案と比べると短い。基本法は、政策の方向性を定める理念法ではあるが、政府は、重要な論点についても改正後に具体化するとの答弁を繰り返し、議論が深まったとは言い難い。
衆院では、与党と日本維新の会などの賛成多数で改正案を可決。与党は維新の提案を一部受け入れ、多収品種の導入促進を追加する修正も行われた。一方で「農業所得の確保」を求めた立憲民主党などの修正案は拒み、多くの野党が改正案の反対に回った。食料安保の必要性や国内生産の強化で各党の認識は一致している。意見が異なるのは、それを実現する手法だ。とりわけ、衆院では農業所得をどう確保するかが議論になった。
改正案では、農産物の価格形成を巡り「持続可能な供給に要する合理的な費用」を考慮する方針を明記。岸田文雄首相はその仕組みづくりへ「法制化も視野に検討する」と表明した。ただ坂本哲志農相は消費者の納得を得ながら進める考えを強調。審議ではコスト転嫁の仕組みを実現する難しさも浮き彫りになった。そのため、野党は価格転嫁の必要性を認めつつも、直接支払いの強化が必要だと主張。参考人質疑でもその重要性を指摘する意見が相次いだ。
これに対し、政府は規模拡大などの構造政策を維持しつつ、「生産性向上や高付加価値化を通じて農業所得の向上を目指す」考えを示す一方、新たな環境直接支払いを検討するとも表明した。
直接支払いの体系をどう組み直すかは重要な論点だ。政府は改正後、水田政策の検討に入る方針で、転作助成金の「水田活用の直接支払交付金」の見直しも避けて通れない。中山間地域等直接支払や多面的機能支払といった日本型直接支払制度の次期対策の検討も控える。
政府・与党も「経営安定対策の充実」を掲げる。だが政権交代につながった旧民主党の戸別所得補償制度への警戒感からか議論に消極的にみえる。国民を巻き込み、財源論からも逃げることなく正面から議論すべきだ。