登録品種自家増殖 実態踏まえ負担軽減を
農研機構は、果樹の登録品種の高接ぎについて1本100円の許諾料を設定した。許諾の申請はウェブ上でだけ受け付け、100本単位の申請を求めている。接ぎ木を1本するにも、100本分(1万円)の許諾料がかかることになる。
ただ、実際の高接ぎには、樹勢や枝ぶりの見極めが必要で、労力や作業時間の制約などで何本接ぐかはあらかじめ確定しにくい。団体による申請も認めているが、部会員を多く抱えている産地ほど、とりまとめの作業は容易ではなく、事後申請など柔軟な対応を求める声が出ている。
衆参農林水産委員会の種苗法改正に対する付帯決議は、農業者による登録品種の利用に支障が出ないよう強く求めている。特に農研機構や都道府県には、許諾などの手続きが農業者の負担にならないよう、くぎを刺す。
この付帯決議を踏まえ、農水省はこれらの公的機関に対し、開発品種の許諾に関わるガイドラインを示しているが、許諾の条件や手続きは、普及に携わる農業者や農業者団体などの意向も踏まえて設定すべきとしている。農研機構と同省は、改めてガイドラインに沿って適切に運用されているかを検証すべきだ。
自家増殖を許諾制とした理由について同省は、過去に自家増殖した農業者から登録品種が流出した事例があり、「育成者権者が登録品種の増殖実態を把握し、種苗の適切な流通管理をできるようにする」ため、としている。あくまで自家増殖の実態把握と流通の管理が目的だ。現状では、その趣旨を逸脱し、むやみに現場の自家増殖に量的制限をかけるものになっていないか。
そもそも、公的機関による品種開発は国内の農業振興のためであり、支障が出るようでは本末転倒だ。産地の負担を軽減するため、自家増殖の許諾申請の単位見直しや、一定期間を設けた上での事後申請なども検討すべきであろう。必要な手続きやルールは生産現場に丁寧に説明し、理解を得ながら進めたい。
一方、ブドウやシイタケの種菌など日本品種の中国への無断流出が相次ぐ。国は、農産物の輸出促進と登録品種の海外流出を防止するため、育成者権を管理する専門機関の設立を目指す。海外への流出防止と、国内の産地形成や農業振興が整合する形で進めなければ法改正の意味はない。