
「うちのハウスは(メジャーリーグの)ドジャースと一緒。大谷にフリーマン、すごいやつがいっぱいいる」。同市の「かめのこ農園」でピーマン73アールを栽培する岡本啓伯さん(64)は、天敵を活用した防除に取り組む。その数なんと20種類以上だ。
「大谷はヒメカメノコテントウ。寿命が他の虫よりも長いし、アブラムシだけじゃなくて、アザミウマやカイガラムシも食べる」。オールラウンダーのヒメカメノコテントウは、5ミリほどの小さな体で害虫を次々に捕食する。この日もアブラムシ類を捕食する瞬間に遭遇した。

岡本さんはピーマンの栽培ハウス4棟に加え、天敵専用のハウス3棟を管理する。山林に網や捕獲器を持って出掛け、原則ピーマンを加害しないテントウムシ類やカメムシ類などを捕捉し、専用ハウスで増殖させる。ハウスでは繁殖につながるバンカープランツとして、ソルゴーやクレオメ、バジルやトマトなどを植える。部分的に製剤の天敵も取り入れているが、多くは土着由来の虫で、購入天敵よりも「サバイバル能力が高く即戦力になる」。実際、記者の想定以上に虫たちは俊敏で、カメラで捉えるのに四苦八苦した。
アリのように見えるのはクロヒョウタンカスミカメ。コナジラミ類やアザミウマ類、ダニ類などさまざまな害虫を捕食する主力種だが、化学農薬に弱く殺虫剤を使えない。緑に輝く小さなバッタのような虫は、カメムシの仲間であるタバコカスミカメ。増えすぎると作物を加害するため、岡本さんは謀反を起こした明智光秀になぞらえて「光秀くん」と呼ぶ。
岡本さんが天敵を導入したきっかけは、20年程前に重要害虫のミナミキイロアザミウマやコナジラミ類に殺虫剤が効きづらくなったことだった。当時慣行防除に取り組んでいたが、県の紹介で天敵製剤の試験を開始。さらに土着天敵を活用する近隣の先輩農家に教えを乞い、仲間とのめりこんだという。
岡本さんは、整枝作業中にも害虫と天敵の状態に目を配る。害虫が増加していれば天敵となる虫を増殖ハウスから派遣し、栽培ハウスのバランスを保つ。
近年は温暖化で山林の環境が変化し、虫の捕捉が難しくなったという。それでも「虫の気持ちになって行き先を探す面白さがある」と前向きだ。岡本さんと小さな従業員たちは、今日もピーマンを守り続ける。
(南徳絵、撮影=鴻田寛之)


