宮沢賢治の詩「永訣(えいけつ)の朝」にも登場するジュンサイ。スイレン科の多年生の水草で、ゼリー状のぬめりに覆われた新芽や若葉を食べる。ぬめりは氷のように透き通った見た目が涼やかで、「ぷるぷる」の食感や「つるっ」とした喉越しが人気だ。
もともと町内の沼に自生していた。昭和50年代から減反政策の転作作物として栽培が盛んになった。世界自然遺産の白神山系などに由来する清らかで豊富な水も栽培に適した。生産量のピークは1991年の1260トンで、全国シェア9割を占めた。

農家約50戸からなるJA秋田やまもと じゅんさい部会は2024年、約16トンを生産した。部会長を務める安藤晃一さん(66)は、四つの沼計約90アールで栽培。午前4時半、木製の小舟を沼に出す。水深は50センチから1メートル。ぬめりは新芽ほど多く、葉が育つにつれて少なくなる。新芽が最も高価だ。
安藤さんが日の出から収穫するのは、梨やリンゴ、桃の摘果も同時並行のためだ。雨の日はかっぱを着て収穫。「ぬめりが多い」と評判の秘訣を「良い水と栽培管理だ」と話す。地下水を使う沼は、10日に1回掃除する。除草剤をまけないため、雑草は手で抜く。
産地直売所「じゅんさいの館」では、開店前から100人以上が行列した。全員ジュンサイが目当てのため、陳列された百数十袋はあっという間に完売。県外で暮らす家族や恩人への贈答品として何袋も買う人が多かった。
安藤さんは「食感と喉越しの良さを感じてほしい。色んな食べ方を知って」と願う。さっとゆで、わさびじょうゆで食べたり、みそ汁に入れたりするのがお薦めという。
(鴻田寛之)


