部会で販路安定
どんな人が有機農業に参入するのか。筑波山などの山々に囲まれた茨城県石岡市八郷地区にあるJAやさと有機栽培部会を訪ねた。同部会は部会員の8割超が新規参入者で、約60ヘクタールで有機JAS認証を取得する。

部会員の多くは、JAが毎年1組の夫婦を受け入れる有機農業研修の卒業生だ。研修生は2年間かけて、JAの農場「ゆめファームやさと」や市の「朝日里山ファーム」で農地や農機、ハウスなどを借りて研修。その間、研修後に営農する農地などを探す。
研修生は、農水省が就農に向けて研修を受ける人を支援する就農準備資金を申請する。1人年間150万円。夫婦で2人分を申請するため、申請が通った場合には生活の安定が見込めるという。
ネギを生産する市内の農業法人に勤務経験がある原洋平さん(45)は、独立就農を目指して今年から研修を受ける。「農機など初期投資の大きさから就農は難しいと考えていたが、この仕組みを知ってできるかもしれないと思った」と話す。
前職が看護師の小林克次さん(45)は、研修2年目。週末に農業を学ぶ民間の「アグリイノベーション大学校」で1年間、有機農業を学んだ。研修先を探す中でインスタグラムで同部会を知り、連絡した。「研修する農地や販路があることが魅力だった」という。
同部会の販路は6割が生協で、スーパーなどにも出荷。直接取引が中心のため価格が安定する。収穫量が多い場合などには、有機JAS認証を取得した農産物として市場出荷もできる。

部会長の田中宏昌さん(44)も12年前に新規参入した。約4ヘクタールでネギやカブ、ニンジンなどを栽培し、年間約1100万円を売り上げる。田中さんは、有機農業で経営を安定させるポイントとして①基本的な農業の知識や技術の習得②売り先の確保③周年出荷――を挙げる。
「慣行も有機も基本となる知識や技術は同じ。自給的農家ならよいが、そこを身に付けていないと生活するのは難しい」と指摘。部会などに所属しない場合には営業も自分で行うため、コミュニケーション能力も必要になるとみる。「就農は飲食店などを起業することと同じようなもの。知識や覚悟を持って取り組む必要がある」と話す。
経営の軸決めて
NPO法人有機農業参入促進協議会の藤田正雄事務局長は、有機農業に参入したいと思った場合「まずは有機農業をしたい理由や品目、販売方法などの経営の軸を決めることが大事だ」という。

決めた軸と合う研修先を選び、研修を受けつつ農地の準備や、研修先を参考に販路の検討を進めるのが一つのモデルだ。「有機農業の研修先は協議会のホームページにまとめているので、参考にしてほしい」と話す。
<取材後記>
「有機農業を始めたい」。そう志した場合に、情報を探すハードルは低い。特に、イベント情報や研修先を紹介する有機農業参入促進協議会のホームページは参考になる。
取材を通して、新規参入者を増やすためには受け入れ側の体制整備が重要になると感じた。参入者はJAやさと有機栽培部会のように産地の特色を打ち出し、研修する農地や設備、研修後の販路まで確保されていることに魅力を感じている。
部会で聞いた「有機農業の研修を受けて参入する人はそもそも農薬を使う選択肢がない。慣行から切り替える場合とはそこが違う」という言葉が印象的だ。21年の新規参入者は全国で前年比で250人増の3830人。新規参入者による有機農業の取り組みを引き続き注視したい。
