「まさか自分のような小規模農家が狙われ、肥料まで盗まれるとは」。被害を受けた農家は戸惑いながらそう打ち明ける。
盗難に気付いたのは今月12日。朝、「シャインマスカット」と「巨峰」を栽培するハウスに向かうと扉を固定していたひもが切れていた。中に入ると、69平方メートルのおおむね半分で、房がほとんどなくなっていた。もう一棟の同面積のハウスも、ほぼ同じ規模で被害を受けていた。ブドウは収穫真っ盛りだった。
ハウスの異変を受け、肥料などを保管している隣接する小屋を確認すると、タマネギや豆類用の石灰窒素や「オール14」など7種28袋と、肥料を撒く散粒機もなくなっていた。資材価格の高騰が続く中、「これ以上高くなったら大変だから春先に買いためておいた」(男性農家)肥料だった。
小屋の扉に錠前は用意していたが、錠はかけていなかった。男性農家は「肥料の盗難なんて聞いたことがなく、施錠の習慣がなかった。しっかり戸締まりをしておけばよかった」と肩を落とす。
窃盗事件として捜査を進めるつくば署や地元のJAつくば市は、農家らに、倉庫などの施設で施錠管理を徹底するよう呼びかけている。
昨夏、各地で発生
農水省によると肥料の盗難の統計調査はない。一方、各地の自治体やJAによると、肥料価格が高騰した昨夏、少なくとも群馬、埼玉、栃木の各県で盗難被害が相次いだ。
同省は「毎日使うものでもなく、被害に気付きづらい。保管場所の施錠を改めて意識し、防犯対策を徹底してほしい」(技術普及課)と呼びかける。
農水省は今春、肥料・農薬の適切な販売・保管の指導をJA全農などに求める通知を発出している。安倍晋三元首相銃撃事件では、肥料として売られていた硝酸カリウムを購入し、爆発物を作ったとされていることを受け、悪用を避けるための対応だ。
同省によると過去、爆発物に使われたことがある化学物質11品目のうち、硝酸カリウムと硝酸アンモニウム、尿素は肥料にも使われている。
県警によっては、肥料や農薬に含まれる化学物質が爆発物の原料になり得るとして、施錠保管を求める文書をJA中央会を通じてJAに発出。JAが組合員に対応を呼びかけているケースもある。