島根県浜田市の山間部、美又地区で「農協さん」の愛称で長年親しまれてきた旧農協の建物が、地域の新たな拠点として生まれ変わろうとしている。地域づくりを志す全国の若者が集まり、学ぶ場として再生しようと、民間団体が改修に着手。2024年度からの始動を目指し、クラウドファンディングで改修費用を募っている。
木造の壁は80年以上前に建設された当初の姿のまま。集落の中に、民家と並んで、地域住民が「農協さん」と呼ぶ建物がたたずむ。JAの前身、産業組合の旧美又信用購買販売組合事務所として1937年に建てられた。
農業資材や日用品などを求める地域住民を支え、2006年までは当時のJAいわみ中央(現JAしまねいわみ中央地区本部)の窓口が設置されていた。JAの支店統廃合後は空き家となるも、JAや地域住民が保全してきた。
再生プロジェクトの中心人物は、県立大学地域政策学部准教授の田中輝美さん(47)。祖母が住んでいた美又地区に2年前、プライベートで訪れ、戦前からの姿を残しつつも、空き家のまま使われていないことを知ったのがきっかけだった。
地域再生について研究する田中さんは、地域づくりに関心のある人が集まり、地域の歴史や文化を学ぶ拠点づくりを目指しており、その場所として「農協さん」に着目した。
「生活インフラを支えてきたJAだからこそ、地域で親しまれてきた。その歴史に触れながら学ぶことに価値がある」と考え、自身が理事を務める日本ジャーナリスト教育センターに「農協さん」の活用を提案。今年5月、同センターがJAから建物を購入し、プロジェクトが始まった。
改修後は、全国各地で地域づくりに携わる人材を輩出する場としたい考え。補修や宿泊機能の整備などを進める一環で、27日まで、クラウドファンディングサイト「READYFOR」で500万円の資金を募っている。18日時点で358万円まで集まった。
JAしまねいわみ中央地区本部の佐々木豊本部長は「人が集う拠点として残ってほしい」と期待を寄せる。
「農協さん」で勤務したこともある地域住民の小西喜美子さん(76)も「地域のシンボルがこれからも残っていくのはうれしい」と喜ぶ。