花の色のトレンドが変わってきた。現在は、落ち着いた色調の花同士を合わせるアレンジメントが若者を中心に人気だ。淡い中間色は“くすみカラー”と呼ばれている。東京・六本木にある生花店に聞くと、人々の生活スタイルや志向の変化に影響されるという。なぜ、くすみカラーが流行しているのか、探った。
脇役から主役に
花き業界で人気の高まるくすみカラーは、複数の色が混ざり合い、少し灰色がかった曖昧な色合いで、見る人に淡く、柔らかな印象を与える。色の主張が弱いことから従来は、アレンジメントの隙間を埋めたり、ブーケの中で鮮やかな色の花を引き立たせたりする脇役としての使用が一般的だった。それが近年では花束の主役を担うようにまでなってきた。
青山フラワーマーケットを経営するパーク・コーポレーション(東京都港区)。くすみカラーを多く売り出す。トレンドになる前から販売していたが、同社担当者は「十数年前は客から『枯れているのではないか』と言われるほどなじみのないものだった」と話す。今ではすっかり定着し、「幅広い世代から好まれるようになってきた」という。
移り変わる流行
花き業界の専門シンクタンクの大田花き花の生活研究所(東京都大田区)によると、花の色のトレンドは時代の流れに大きく関係している。
2000年代初頭は「母の日」の定番ブーケなどで花束を作るときは同系色の花を合わせるのが主流だった。10年代初頭になると、インターネット交流サイト(SNS)の登場で大きく変化。写真映えすることから、青と黄色など、鮮やかではっきりとした色を反対色で合わせるアレンジメントが流行した。
SNSの利用が定着し始めた16、17年に鮮やかな色彩の人気はピークを迎えた。その後は次第に現在のくすみカラーへ移行したという。

レトロブームも
東京・六本木に店を構える生花店・カリアンの横山恵美主宰は、くすみカラー流行の背景には「レトロブームと新型コロナ禍が大きく関わっている」と分析する。高画質に進化するスマートフォンのカメラやテレビと逆行する形で、フィルムカメラやインスタグラムでのレトロ風の写真加工が流行。淡くかすれたような色合いが好まれるようになり、ファッションやインテリアでも同様の色へトレンドが変化した。
横山主宰は身の回りのものが落ち着いた色合いになっていく中で「花も飾る環境に合うくすみカラーが徐々に好まれるようになった」と説明。加えて、コロナの流行による大きな生活様式の変化の中では「癒やしとして優しい色合いの花のニーズが高かった」と話す。
カリアンは、雑誌やCMを手がけるスタイリストなど、流行を仕掛ける人々も多く利用する。横山主宰は、店頭で聞く客の生の声を参考に、花き産地に今後の花のトレンドについてアドバイスもしている。横山主宰は「今よりも濃いミックスカラーが近い将来流行する」と予想する。今後、コロナ禍が落ち着き、人の流れが活発化することから「華やかな色合いがまた人気になるのではないか」と見通す。
実際に次のトレンドとなる色合いの花を一つ見せてもらった。鮮やかなピンク色の花を濃い青で染めたガーベラで、グラデーションがとても美しかった。
<取材後記>
現在の花の色トレンドであるくすみカラー流行の背景に、世相が大きく関わっていることはとても納得がいく。
自分は23歳。つい1年前まで学生だった。学生時代はレトロブームど真ん中。趣味はレコード収集で、昭和風の家具や洋服を好んでいる。自宅で飾るために定期的に花を購入するが、無意識に淡い色を選ぶことが多い。社会人になった今でも「淡くてレトロ風の物がおしゃれ」と考えている。
今回の取材を通して改めて自分がくすみカラーを好んでいることに気付かされた。だから、生花店・カリアンが見せてくれた次にヒットするであろう濃い色の花には驚いた。華やかで美しい花だったが、自分がこの花を家に飾る光景は想像し難い。
社会人なりたての自分は、くすみカラーの花に癒やしを求める日々が当分続きそうだ。
(永井陵)
