安価なのは魅力だけれど、特別な技術は必要? 文系でプログラミングの知識も乏しい記者にも自作できるか──。
装置は5000円以下
同試験場環境安全研究室主任研究員の山本岳さんに、作り方を教わる前の段階として環境測定装置に必要な部品を尋ねた。初めて聞くものばかりだったが、主要なものは七つ。いずれも、アマゾンをはじめとしたインターネット通販サイトで購入できることが分かって安心した。今回は全て準備をしてもらったが、センサーを除いた装置本体の価格は5000円以下に収まるという。
山本さんは「市販の装置が高いのは、信頼性や精度が高いため。最低限、現場に必要なレベルに合わせることで、低コストを実現した」と説明する。センサーの種類でコストが変わることも分かった。地温計や温湿度計は1000円以下と安価。日射量計や電気伝導度(EC)計は高いが、代用品で安くできる。土壌水分計のように実用的な物は高価で、自作が難しいセンサーもある。測定する項目を事前にイメージしておくことが重要だ。
2時間半で完成
今回は地温、温湿度、日射量、EC、土壌水分の5項目を測定する装置を作った。本体の制作はブレッドボードの上の穴に、五つのセンサーにつながる配線を差し込んでいくもので、特に問題なく組み立てられる。レクチャーを受けながら2時間半で完成させた。
大変だったのは、はんだごてや圧着ペンチなど工具の使い方。はんだがダマになるなど苦戦。試験場でこつを教えてもらわなければ失敗していたかもしれない。
どんなタイミングで、どのセンサーで測定するのかを命令するのがプログラム。プログラム用ソフト「Arduino(アルディーノ)IDE」をダウンロードし、パソコンにインストールした。海外製でとっつきにくいが、日本語で表示できるよう変更した後は、マニュアルがあれば簡単だ。
自作の装置をソフトに認識させ、測定項目や測定のタイミングを任意に設定するだけ。「時間を割けば、インターネットや書籍での独学でもプログラミングは可能。ただし、実際に経験したり、作ってみたりしないと、身に付くものではない」(山本さん)とくぎを刺された。
高機能化も可能
本体が完成し、プログラムもできたところで、実際に動かし、3秒に1回、全5項目を測定してみた。測定中は外見上、本体にランプが付くだけなので不安に感じた。パソコンで確認すると確かに測定できていた。
施設園芸では、栽培環境の測定はかなり進んでいるという。しかし、施設のどの部分にセンサーを設置するかといった、解決しなければならない課題が多いことも分かった。
山本さんは「今回の装置は気軽にできる技術。農業者が自分のイメージをかなえられれば、モチベーションにつながる」と捉えている。温湿度や日射量などの他にも、画像撮影や重量計など世の中に出回っているセンサーにもプログラム次第で対応できるという。「これまでとは違った角度での活用が期待できる」という言葉に、自作装置の将来性を感じた。
<取材後記>
パソコン上に測定データが表示された時は正直言って、ほっとした。
試験場のサポートとマニュアルのおかげで思ったよりも簡単に完成させられた。難しいと感じたのは工具の使い方や、センサーの選び方で、詳しい人のレクチャーが必要だと感じた。プログラム用ソフトに関しても、パソコンに慣れていない人は厄介だと感じるだろう。センサーの一部には高価なものもあり、精密なデータではない。自己責任も伴う。
しかし、マニュアルの通りならば5000円以下に収まり、制作時間も2時間半程度。市販の環境測定機器を購入する前に、試しに作ってみるといった選択肢が増える。
帰り際に山本さんに「初めての人が難しいと感じるところを知れた」と話していた。マニュアルは改訂して年度内に公開予定。分かりやすさに貢献できれば、うれしく思う。