「雇用型」で率高く
新規就農者の離農率はどれくらいか。農水省によると新規就農者全体を対象とした統計はなく、分かるのは支援金を受給した人の離農率だけだ。
2022年度の調査では独立・自営就農を対象とする「経営開始資金」受給者の1年後離農率は2・3%。一方、農業法人などで雇用するケースに使われる「雇用就農資金」では同24・9%だった。2年後以降の調査はない。
厚生労働省によると、全産業では、22年に大学を卒業した新規就職者の1年目離職率は12%。比較すると、独立就農の離職率は低く、雇用型就農の高さが際立つ。そこで雇用型就農に焦点を絞り、調べてみた。
雇用型就農における離農の原因はどこにあるのか──。同省によると、同事業利用者の離農理由で最も多いのは「自己都合」だった。また、農林水産政策研究所が21年にまとめた分析では、農業の雇用労働者(新規就農に限らない)の離職理由で最も多いのはその他以外では、男性で「労働条件が悪い」、女性で「結婚、出産など家の都合」だった。
労働条件改善進む
雇用就農資金(21年度までは「農の雇用事業」)利用者の離農率は高いものの、近年は減少傾向にある。18年度時点は33・9%で、4年間で9ポイント下がっている。
同省によると、要因は労働条件の改善だ。19年度から同資金に対し、働き方改革実行計画の作成を交付の要件とし、就農者が定着しやすい環境整備を促している。
従業員の出産契機
改革が進む現場の最前線を見るため、23年度の全国優良経営体表彰・働き方改革部門で農水大臣賞を受賞した熊本県益城町のみっちゃん工房を訪ねた。
ハウス3ヘクタールでベビーリーフを栽培する同社は、社員7人、パート5人、外国人技能実習生5人が働く。週休2日、有給休暇取得義務付け、育児・介護休業や家賃手当の導入など、手厚い福利厚生が特徴だ。
福利厚生は会社にとっては経費だが、社長の光永カオリさん(50)は「機械や重油代と一緒で絶対必要な経費」と言い切る。
同社が働き方改革に着手したきっかけは、女性パート従業員の出産だった。7年勤務した実力があり、退職は会社に痛手となる。そこで育児休業給付が出るよう雇用保険に加入し、続けてもらうことができた。
週休2日制は、17年に例年の倍の注文が入り、週6日早朝から晩まで働く「死を覚悟するような状況」となった反省から導入した。休みを増やしても、週休1日の頃と同人数で同じ生産量を確保できているという。従業員は疲れを取り、私生活を楽しむ余裕が生まれたことで、仕事にめりはりがつき、作業効率が上昇したためだ。
人材は県外からも
改革の結果、離職率が減り、福利厚生に引かれ県外からも人材が集まるようになった。鹿児島県出身の佐藤岳海さん(29)は、将来結婚を考えている彼女のために「育休が取れる環境で農業をしたい」と2月から同社で働き始めた。大阪府出身の西田藍さん(30)は、同社で働き3年目。「女性が長く続けられる農業法人を探していた。休みがしっかり取れるので働きやすい」と話す。
<取材後記>
農業をやりたいと希望に燃えて道を進んだ就農者が、農業を諦めるのは業界全体の大きな損失だ。もちろん就農者側にも計画性や体力、過酷な環境に耐える覚悟などが足りなかったのかもしれない。だが、独立就農の離農率が低いことを見れば、就農者の覚悟だけに責任を帰すわけにはいかない。
休まず働くことが美徳の一つとされたこともあった。だが、現代は男性も女性も等しく育児などへの参画が求められ、ワークライフバランスが重要な時代だ。農業の常識が変わる時を迎えている。
働き方改革は経費の増加だけでなく、生産性向上にもつながる可能性がある。持続可能な雇用の道を探る必要がある。