【ひろしま】「広島和牛」に新たな息吹を――。県立西条農業高校の生徒が育てた「神竜粋吹」(父=神竜岩田、母の父=沖茂神竜)が広島血統再構築種雄牛に登録され、精液の供給を始めた。全国和牛登録協会などによると、高校生が飼養した和牛が種雄牛に登録されるのは県内では初めてで、全国的にも珍しい。県は2027年に北海道で開かれる第13回全国和牛能力共進会(北海道全共)の第1区(若雄)の指定交配牛の1頭に選び、関係者や生産者は大きな期待を寄せる。
県は12年から、遺伝的多様性の維持・拡大と地域の特色ある牛群の造成を進め、血統再構築に取り組む。比婆庄原地域の蔓牛(つるうし)の流れをくむ希少血統「38岩田系」では遺伝子を強く受け継ぐ「烏帽子」と「神竜岩田」で造成する。共に過去の全共で種牛・肉牛の両方で日本一に輝いた「第3神竜の4」を父に持つ。
同校は、能力の優れた繁殖牛6頭を飼養し、地域資源を活用しながら、「広島和牛」のブランド向上を目指して研究を続ける。兄牛が脂肪交雑基準(BMS)ナンバー12に格付けされたことで、「あられ」を母牛として保留し、繁殖牛として活用。県の期待が大きい「神竜岩田」を人工授精で交配させ、23年6月に雄牛が生まれた。
子牛の管理は、今春卒業した内城粋咲さん(18)が担当し、「和牛業界に“粋”な風を吹かせたい」と名付けた。夏休みも牛舎に通い、健康状態に細心の注意を払いながら飼養に汗を流した。「神竜粋吹」と、ブラッシングや声掛けなどでコミュニケーションを深め、信頼を築いた。

複数の牛から「38岩田系」を色濃く受け継ぐ血統、優れた体形や発育の良さ、ゲノム育種価の成績などが評価されて、24年1月に候補牛に選ばれた。県立総合技術研究所畜産技術センター(庄原市)に引き取られ、直接検定を実施。1日当たり平均増体量(DG)や飼料効率、発育などを調べ、血統再構築種雄牛として登録した。
同センター育種繁殖研究部の日高健雅部長は「若い人が畜産と地域に興味を持ち、ひたむきに取り組む姿は頼もしい。広島血統を生かした種雄牛造成を全共で発信し、広島和牛の魅力を全国に伝えたい」と話す。県は北海道全共を19、20カ月齢で迎えられる第1区の指定交配重点期間に4、5月を位置付け、生産者に協力を求める。
鹿児島大学共同獣医学部に進学し、将来は広島県の畜産に携わることを目標にする内城さん。「小さかった“粋吹”が県を代表する立派な種雄牛に育ち、誇らしい。広島の畜産と生産者を支えてほしい」と笑顔で話す。