音楽と農業、とても似てると思う。その国、その土地に合ったものが育つし、それが一番うまい。
食や農業、エネルギーについて真剣に考え始めたんは、東日本大震災がきっかけやった。原発事故で電気を大量消費するイベントが中止されて、東京・九段下にある武道館で予定していたシアターブルックのライブも「できない」となった。
自然エネルギーの時代が来ると思っていたから、「太陽光で電気を作ろう」と提案した。最初「お前はアホか」と言われたけど、太陽光パネルや蓄電池のメーカーなどいろんな人が支えてくれて、本邦初の太陽光電源ライブを武道館でやれた。みんなで知恵を出し合えば、どんなことでも乗り越えられるね。
その仲間たちと、太陽光電源だけの大規模野外ライブ「ソーラーブドウカン」を始めたら、今度は太陽光パネルの下で小麦を作る農家や有機栽培農家、地域野菜を使うシェフ、地元産米で醸造する老舗の酒蔵など「食」に造詣の深い人たちとどんどんつながった。農業も自然が相手だから、自然エネルギーとも相性がええんやね。
新型コロナウイルスで音楽業界は「不要不急だ3密だ」とボッコボコにされたけど、世の中に不要不急の仕事なんてない。あると言うなら、個人の主観にすぎない。どんな仕事もどこかで誰かが必要としているし、それで飯を食ってる人がいる。「自然豊かな場所で小規模の屋外ライブをやろう」と提案した。
それが、昨年4月に東京・秋川渓谷の小さな野外ステージでジャンルを超えた音楽仲間と開催した「ソラリズム」。関係各所に話を通し、感染を防ぐ細心の注意を払った。日本の公園には野外ステージが無数にある。
音楽は本来、商品じゃなくお祭り。ロック、クラシック、演歌、民謡だのと、ジャンルを分けて閉じこもるのはよくない。ソラリズムには地域のお年寄りや子どもも招き、いろんな音楽を楽しんだ。コロナで人とのつながりが絶えていたから、その分の喜びもあった。豊作を祝う村祭りのようなソラリズムはこれからも続く。
狭い日本でこれだけの人口を養うすごさを思う。アフガニスタンで亡くなった中村哲さんが言ったように、井戸があって食べ物があれば戦争なんて起きない。なぜ食料を自給できる国力が大切か。次世代のためもっと真剣に考えんとあかん。
農業は平和を守り、音楽は平和を求める。もし、中学生の時にギターと出合っていなかったら、俺は今頃、新聞記者か農家をやっているかもしれない。
さとう・たいじ(本名は佐藤泰司) 1967年1月徳島市生まれ。日本を代表するギタリスト。86年「シアターブルック」を結成。「ありったけの愛」などヒット曲多数。2児の父。
