私が制作に携わっている情報誌「東北食べる通信」は作り手にスポットを当て、生産のストーリーと食材を一緒に届けている。作り手を身近に感じることで愛着が湧き、よりおいしく感じることができる。それは生産者へのリスペクトを育む。
生産現場には消費者を感動させるものが必ずある。取材時は毎回、農村の価値を見つける“探検隊”のような気持ちで臨んでいる。
取材して印象に残っている食材の一つが岩手県の短角牛。煮込みにすると軟らかく、うま味が凝縮されていた。さしの入った肉にはない、赤身肉のおいしさに触れ、深く感動したのを今も覚えている。農村の価値を探り当てた気分だった。
生産者とつながりたいと望む消費者は多い。「食べる通信」の読者向けにインターネット交流サイト(SNS)上でコミュニティーをつくり、生産者を訪ねる現地ツアーなどを企画している。生産者とつながりを持ち、その地域を知り移住した人は10人を超える。食材は人を魅了するだけでなく人と人を結ぶ力がある。
私が食や農を強く意識するようになったきっかけは東日本大震災。以前住んでいた関西から被災地の岩手県大槌町に移り住み、仮設住宅で子どもの学習支援をするNPO法人に従事するようになった。
その時、町の基幹産業の農業や漁業が津波で壊滅的な被害を受けたことを目の当たりにした。子どもたちはこの町でどう生きていくのか、想像すらできなかった。子どもたちが住み続けたいと思える地域をつくるには、農業や漁業の生産現場の素晴らしさを発信し、ファンを増やす必要があるという考えに行き着いた。その思いを具現化するため、知人らと共に「食べる通信」を創刊した。
取材先で、いろいろな人に出会った。東京電力福島第1原子力発電所事故の被害を受けた福島県に移住し、会社員から農家に転身した人、農業経営を法人化して規模拡大した若手。みんな、自然災害にも屈することのない、すさまじいパワーを持っている。
丹精した農産物をきちんと評価する消費者とつながることで、生産者のパワーはさらに伸びる。生産者と消費者が相互に価値を提供し合う関係こそが、国産農畜産物の魅力を高める原動力になる。(聞き手・高内杏奈)
あべ・まさゆき 1982年10月生まれ、札幌市出身。ポケットマルシェが運営する「東北食べる通信」の3代目編集長。2012年に岩手県に移住し、大船渡市に居住する。
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