セリ鍋は、セリをメインの食材にして、根を含めて丸ごと使うことが多い。季節感や地域性を楽しめる鍋料理だ。
宮城県の食材を使った料理を提供する居酒屋・すりみや 神田淡路町店(東京都千代田区)は、セリ鍋を1人前1749円で通年販売する。根まで使っての提供は、11月~翌年2月ごろの季節限定。大野順也店長は、「東日本大震災の翌年ごろから、宮城県の農産物の魅力発信を通して、同県の農家の復興を応援するために提供を始めた」と話す。販売数量は年々増加傾向だ。「ディナー帯の客の9割が注文し、ほとんどの人がリピーターになる。常連の人が新しい客を連れてくることで、年々セリ鍋ファンが増えている」(大野店長)という。
首都圏伸び顕著

セリ鍋を提供する飲食店は全国的に増えている。グルメサイトを運営するぐるなびによると、国内でセリ鍋を提供する飲食店(25年1月時点)の数はデータのある16年1月比で3倍に増加。首都圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)では、同4・2倍と全国平均よりも伸び率が大きい。
鍋需要の高まりを受け、セリの卸売価格も上昇傾向だ。24年の年間平均の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は、データのある06年比で2・1倍の1キロ1811円。東京の青果卸は、従来の京浜市場では七草や、きりたんぽ鍋の具材としての需要が一般的だったが、「近年は12月中旬~3月初旬に、セリ鍋向けの引き合いが強い。飲食店に加えて、スーパーも取り扱いを増やしている」と話す。
GI取得追い風
需要の高まりを受け、主産地の出荷額も増えている。宮城県のJA名取岩沼によると、23年度(23年8月~24年4月)のセリの出荷額は4億8535万円で過去最高を更新。出荷量は生産者の高齢化の影響から緩やかな減少傾向にあるが、出荷額は好調な相場が押し上げて10年前から2割近く伸びている。
同県名取市と仙台市太白区で栽培されている「仙台せり」は24年3月に、農水省が定める農林水産物や食品の名称を保護する地理的表示(GI)保護制度に登録された。同JAは、「新規就農者も受け入れながら、GI取得も追い風に、生産量の維持・増産を目指していく」と話す。
(永井陵)