始まりは「豆腐屋さんの謎」
医薬品・化粧品などを製造・販売するノエビアグループ常盤薬品工業(神戸市)は国産大豆の豆乳を使用した、スキンケア商品「なめらか本舗」ブランドは成長を続ける。化粧水や美容液、乳液などを幅広く展開し、2024年9月まで1年間の売り上げは過去最高を記録した。04年のブランド設立当初、健康志向の高まりでイソフラボンが関心を集めていた中、「お豆腐屋さんの手がすべすべなのはどうして?」という疑問から商品開発を進めた。当初から国産大豆を使用し、商品には「国産大豆ふくゆたか使用」などと表示する。同社は「輸入大豆では農薬使用など栽培状況も把握しづらい。国産で品質に配慮されたものを使用したい。国産と表示することで大豆へのこだわりと安心を感じてほしい」と語る。

55種の強み生かし配合
同社は全国から55種類の大豆を集め成分を研究。豆乳に加工して発酵・濃縮したイソフラボンを豊富に含む保湿成分「豆乳発酵液」を抽出して配合する。品種によって保湿や肌を健やかに保つ成分が異なり、美白ラインの商品には北海道産「ゆきぴりか」、エイジングケアラインには滋賀産「タマホマレ」、保湿ラインには九州産「フクユタカ」を採用。同社は「ユーザーから国産大豆使用が安心感につながるとした声がある」と話す。

スキンケア化粧品の相手先ブランドによる生産(OEM)などを行うサティス製薬(埼玉県吉川市)は、「肌悩みにアプローチする有効性を追求した結果、有効成分が豊富に含まれている各地の素材にたどり着いた」と全国各地の農産物などを活用した化粧品原料の開発に取り組む。これまでに青森産食用菊、大分産クチナシなどから作り、100種類以上に及ぶ。配合した化粧品の年間出荷数は、10年の開始当時の14万個から22年には2700万個以上に拡大した。
大分県のあるクチナシ生産者は、食用需要低下で生産をやめようと悩んでいた。しかし化粧品への活用が決まると、継続を決断。「クチナシを求める人がいることが希望になった」という。同社は「肌悩みにアプローチする成分は農産物の中に眠っている。今後も各地の素材を発見していきたい」と語る。
(写真はサティス製薬提供)
民間調査会社の富士経済は24年9月、スキンケア商品市場は近年拡大し、24年には1兆3956億円に達すると見込んだ。韓国のメーカーなどからも商品の投入が進み競争が激化しているという。配合成分を重視して商品を選ぶ消費者が増加。同社は「今後も効果や成分を重視する傾向は強まる」とみる。国産農産物由来の成分が今後、注目度が高まりそうだ。
スキンケア商品での国産由来成分の表示を歓迎したい。メーカーは商品へのこだわりや安心感を打ち出すのに、国産原料の採用が有効な手段とみているのだ。表示からどんな産品か、消費者は関心を示す。実際にその農産物を食べたくなる人も出てくるはずだ。スキンケア商品を通じて生産側の情報を発信する機会にしてみてはどうだろうか。国内の農産物が持つ可能性を広げ、消費拡大への新たな一手として期待される。
(森井千尋)