
日本農業新聞「女の階段」愛読者の会は、手記集「手をつなぐかあちゃんたち」第16集を発刊した。「食育」「農業と家の継承」「地域活性化」「食の安全」などをテーマに74の手記を掲載。女性農業者が食や農業の取り組み、地域、家族への思いをつづっている。
目次
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●ペン仲間たちの思い ●アンケートでみる”女たちの今” ▶「女の階段」投稿宛先はこちら 「女の階段」は1967年の投稿から始まった。投稿欄から発展し、69年には全国回覧ノートの仲間づくりとともに、各地でグループが誕生し、76年には初の愛読者の会の全国集会が東京で開かれた。今なお「仲間と共にペンを持ち、読むこと、話し合うことの実践」を続けている。
新型コロナウイルス禍で行動変容が進む中、第16集は絆を問い直す内容も多かった。自らの人生を振り返りながら、好きなことや、熱中できる趣味を持ち、日々の生活を楽しもうとする内容も目立った。全国集会の思い出を紹介し、笑顔で再会したい思いも寄せられた。
手記集から
集会参加に家族が協力
かつて私の嫁時代、女の階段全国集会は第1回、第2回とも、秋葉原の本社で開催されました。嫁の立場で参加したい旨を夫にも言えず断念、開催後の日本農業新聞の記事を楽しみに拝読しました。
第3回は隣県の仙台市で開催され初めての参加、うれしかったです。方言丸出しの私の発表が新聞に載り、恥ずかしい思いもしました。
家族の協力で12回の全国集会に参加できたことへのうれしさ、ありがたく思っております。高齢になりましたが、これからも全国のお友達との交流をまだまだ続けたいと願っております。(一部抜粋)
(福島県会津坂下町)
読後の感想
投稿欄が仲間づくりに
春らんまんの折、「女の階段」の手記集が届き、夢中になって読み終えました。
手に持った時、なんと軽いのかとびっくりしましたが、応募数が少なかったのだろうと、寂しい気持ちになりました。でも手記集名が「女の階段」であったことが私はとてもうれしく、とても満足でした。
半世紀前、紙上に「女の階段」という投稿欄があったために、回覧ノートや全国集会へと発展したのかもしれません。
手記集に書かれているお一人お一人の人生観に感動し、高齢になっても働けることは幸せなことと思い頑張っている人、穏やかな生活を続けられていることへの感謝の気持ちが伝わってきました。
若いお母さんがもっとペンを持っていただけたらなと願う気持ちが湧いてきました。
(千葉県我孫子市)
【寄稿】金子キミ代さん(73)
「女の階段」愛読者の会会長

”共感、学びの輪を全国に”
女の階段「愛読者の会」グループの良さは、全国に友達ができ、広い視野が持てることだと思う。発足当時、私たち世代の女性農業者は全国域でつながるグループがなかった。回覧ノートや全国集会などを通じて友達をつくれる機会があるのはとても貴重だ。
私は酪農業に奮闘し、自家生乳を使ったアイスクリーム店を開業した。農業をやりながら夢を持てたのはたくさんの出会いがあり、縁を大切にしてきたからだと思う。「女の階段」が心の支えになったという会員は多い。3年に1度の全国集会に参加するために三重、新潟、熊本など各地に出かけた。特に分科会は勉強になった。家族や仕事、親の介護のことなど、いろんな人の話を聞き、共感し、多くの刺激を受けた。
今回の手記集にも同様の内容が寄せられていた。書くこと、学ぶことが視野を広げ、自らの農業経営や地域の発展につながっていくのだと思う。
手記集では、日本農業新聞が「女の階段」愛読者の会会員を対象に行ったアンケート(2020年7月)の結果を紹介している。
質問項目は、『農家女性の戦後史 日本農業新聞「女の階段」の五十年』の著者、駒沢大学経済学部の姉歯曉教授が監修。これまで関わってきた会の活動や今後の在り方、女性参画について聞いた。
「女性の参画」(社会、地域、農業経営など)について聞いた項目では、変わったと思うことと、変わらないと思うこと双方の上位に「家庭内での役割分担」と「経営への参画」が挙がった。
家庭内での役割分担が、依然として女性に偏っている側面もあることが示されている。
変わったと思うことの上位は、「自分の自由になるお金が持てるようになった」「自由に外出したり、友人と会ったりできるようになった」。この2点は大きな変化といえる。
【寄稿】駒沢大学経済学部・姉歯曉教授
愛読者アンケートを監修
”歴史と心を次世代へ”
「できること」も大切だけれど、「少し大変でも、今、やらねばならないこと」が重要だと思う。それは、「学び、行動してきた」女の階段愛読者の会の皆さんの歴史と思いを次の世代に引き継ぎ、発展させること。
私が講演や研修会で、皆さんの「農薬表示改善運動」や「WTO交渉反対1万人はがき作戦」のことを話すと、若い女性農業経営者からは「すごい!」と驚きの声が上がる。そのような歴史と学び、思いが詰まっているのが手記集だ。第16集まで読むと、女性農業者の変遷がよく分かる。
今回掲載されたアンケート結果から見えるのは、相変わらず相続の場には参画できず、家事など家庭での役割分担が女性に偏っている面があることだ。
研究のために1年間行ったスウェーデンで、女性農業者らが「相続のことは言い出しにくい」と言った。ジェンダー平等が進んでいると思われるスウェーデンでも、まだ難しい問題だ。ただ、役員や地域の仕事を引き受けるとき、「夫の許可(理解)を得る」という発想は彼女たちにはない。どうしたらできるかを一緒に考え行動する。決めるのは自分だから。
「男だから、女だから、母親だから、嫁だから」という意識を変え、「個人」として幸せになること。それが、性別や年齢に関係なく生きやすい社会を実現することにつながる。
「女の階段」の皆さんには若い人たちと話す場をつくり、これまでの実践と学び、思いを伝えてほしい。少人数の座談会からでも始めよう。できる限り協力したい。
※掲載した原稿は、日本農業新聞の各種電子媒体、事業にも使用することがあります。