母方の祖母は中華料理の先生でしたし、母の弟は野菜をふんだんに使う中華がゆの店をやっています。
母はといえば、自分が若い頃に体が弱かったこともあって、私のことを健康に育てたいという意識がとても強かったんです。小さい頃から玄米と一汁一菜の食事。発芽玄米を前の日から水に漬けるという面倒くさいことを、毎日やってくれていたんです。幼稚園に入った私は他の子のお弁当を見て、「どうしてご飯が白いんだろう」と思いました。
父方の祖父母は長野に住み、自分たちでおみそを造っていました。けっこうなぬか床があって、食卓には野沢菜などの漬物が必ず出てきました。これが漬かりに漬かった酸っぱいやつで、おいしかったですね。
おかげでとても丈夫に育つことができました。
学生の頃は反動が出てジャンクフードを食べまくっていましたが、胃が痛くなったりして、自然と母が作ってくれていたような食事に戻っていったんです。
和食が大好きなので、ご飯もおいしくいただきたい。母を見習って、私も土鍋でご飯を炊いています。炊飯器で炊くよりもおいしいし、おこげができるのもうれしいです。
ご飯とみそ汁、納豆、そして自分で作ったぬか漬けを食べると、しみじみおいしいなあと感じます。ぬか漬けは、カブやキュウリはもちろんですが、ミョウガもいいですよ。
近所のスーパーに、農家さんと直接取引した野菜を売っているコーナーがあります。作った方の顔写真と名前が張ってあって、曲がったキュウリとかを売ってるんです。そのコーナーが大好き。フレッシュさが全然違いますよね。
こういう食生活を続けていますから、地方に行った時はなるべく新鮮な地の物を食べるようにしています。まずは地元の人からお薦めの店を教えていただき、今度はその店に来ていたお客さんから別の店の情報を教えていただいたり。
金沢に行った時、和食店で出てきたカワハギのおいしさにびっくりしました。きれいに並んだ刺し身に囲まれるように、肝が真ん中にドンとあって。こんなの初めて、と喜んでいただきました。その店は特に有名なところというわけではないようで、お客さんに観光客はいなくて、近所の人だけ。こういう店でおいしい食事に出合うのが、旅の楽しみだと思います。幸せでした。
このたび「道で拾った女」という映画で、ホームレスの役を演じました。撮影前に役作りとして、極力、食事を取らないようにしたんです。
見た目も痩せていた方がいいですし、心情的にも食べ物があったらなんでもいいから食べたいという思いを持っていた方がいい。
そこで撮影の1カ月くらい前から、徐々に食事の量を減らしていきました。体調を悪くしないように野菜だけは食べ、炭水化物とタンパク質は控えて、極限状態にチャレンジしてみました。
それを続けたら、だんだん脳みそが動かなくなっていくのが分かるんです。3週間くらいたった頃、歩いていたら、コンビニの前にメンチカツが丸々落ちていたんですよ。誰もかじっていないのが。「おいしそう! なんてきれいなメンチカツなんだろう。これ、食べられるよなあ。食べていいかな」と、ずっと見詰めてしまっていたんです。
さすがに周りの目が気になって、拾うことはしませんでした。まだそういう意識はあったわけですけど、あと1週間たっていたら拾って食べていたかもしれません。
おいしいご飯をしこたま食べるというのは、なんて幸せなんだろう。そう実感しましたね。
ささき・ここね 1990年、東京都生まれ。2013年、映画「フィギュアなあなた」のヒロインに抜てきされ、ブルーリボン賞・新人賞などにノミネートされる。その後も「マリアの乳房」「最低。」で主演する一方、近年は「娼年」「愚か者のブルース」などの映画で脇を固めている。実母と結成した音楽ユニット「CO906.(こころ)」としても精力的に活動している。映画「道で拾った女」が公開中。