でも子どもたちは、毎日パスタを食べると飽きちゃうんです。それでお母さんは、たまにお米を使ったオーブン焼きの料理を作ってくれたんですよ。
お米をゆでて、その後にトマトソースをミックスします。トマトソースは、家庭によって違いがあるんです。うちのはちょっと肉の味が出ていました。牛肉のみじん切りも入れて煮込んだんでしょうね。
お米とトマトソースを混ぜた中に、生ハム、ソーセージ、サラミ、ゆでた卵、モッツァレラチーズとかを入れるんです。その上にパルミジャーノ・レッジャーノ(チーズ)をかけて、オーブンで焼いて。手間がかかるから、お母さんの時間に余裕のある日曜日や、何かの記念日とかでしか作ってもらえなかったです。

これは僕にとって、すごいごちそうだったんですよ。めちゃくちゃおいしい。ソースが絡む上、ソーセージやハムの脂も溶けて、それをお米が吸い込むから。たまにしか作ってもらえなかったので、余計にごちそうという感じがしました。
温かいうちに食べてもいいし、冷めてもおいしかったんですね。ですからお母さんは、いつも多めに作ったわけです。例えば海に行く時、この料理をお弁当のような感じで持って行ったりもしました。
この料理のおかげで、お米がすごく好きになったんです。リゾットもおいしい。でも僕のお母さんの料理は、リゾットとは違う。リーゾ・アル・フォールノといいます。リーゾはお米、アル・フォールノはオーブン焼きという意味です。

イタリアでは地方によって食べるものが違います。お米を食べる習慣は北イタリア。ロンバルディア州やピエモンテ州の方で、昔からお米を作ってるんです。ですから北部ではリゾットの文化があるんですね。
僕が住んでいた南は、パスタの文化です。ナポリは昔、スペインに支配されていました。大昔、スペインにアジアからお米が入ってきて、それがナポリにも運ばれて食べられた。でも珍しいものだから、貴族の人たちの料理で使われたんです。一般の人は食べられなかったんですね。
日本に来てからは、日本の白いご飯のおいしさを楽しんでいます。日本料理とイタリア料理は、素材の味を生かすという共通点があると思うんです。ですから日本の焼いた魚とかはおいしいと感じますし、それと一緒に食べる白いご飯もすごくおいしいですよね。

お米が好きだから、いつか日本でお米を作りたいと思っていました。
その思いがかなって、今、お米を作っているんです。去年まで会津と淡路島の2カ所で。今年から広島県と岐阜県でも作るので、計4カ所で。
最初に始めたのは会津。美里(福島県会津美里町)に、僕の義理のお父さんのおいっ子が住んでいて、農家の7代目ですけど、結構年をとっているから、だんだん作るのが大変になってきたのだと思います。それで、僕に続けてほしいと言ってきたんです。
やるなら、今までやってなかった新しいことをやってみましょう、と。それで有機米を作り始めたんです。現地の農家の人たちとも仲良くなって、今年は6人で一緒にやろうという話になっています。作っているお米は「福、笑い」。ちょっと甘味があって、オーブン焼きにしてもおいしいですね。
会津若松の白虎隊の墓のところに、ローマ市から寄贈された石碑があるんです。白虎隊の話に感動して贈られたモニュメントだそうです。その石碑は、イタリアのポンペイの大理石。ポンペイとナポリは近いし、何かつながりを感じています。
(聞き手・菊地武顕)