<ことば>種苗法
植物の新品種を開発した育成者の権利を保護する法律。育成者の許諾なしに、品種登録した品種(登録品種)の苗を増殖・販売することを禁止している。苗の無断増殖・販売が横行すれば、育成者は品種開発のコストを回収できず、新たな開発ができなくなってしまうためだ。
増殖・出品が容易 侵害の判断難しく
第一の理由は、サツマイモの苗が簡単に増やせることだ。
野菜の種苗は交雑種(F1)が多く、増やそうとしても親と同じ性質にはならない。だがサツマイモは、種芋やポット苗から同じ性質の苗を簡単に増やせる。近隣農家間での苗の融通が慣習的に行われてきた地域もあり、農水省は「違反のハードルが低い」(知的財産課)と指摘する。
第二の理由は、フリマアプリを使えば誰でも簡単に出品し、全国の不特定多数に販売できるためだ。メルカリの場合、商品の写真と説明、価格などを入力すれば出品可能。出品禁止物を確認するよう注意書きが表示されるが、メルカリが商品を確認することはなく、実際には禁止物でも出品できてしまう。
注意を促すため、同社は6月にガイドラインを改定。出品禁止物として、登録品種の種苗の無断増殖・販売を明記した。だが禁止物は無数に例示されており、利用者が見つけられない可能性もある。
種苗法違反は、被害者が訴えなくても摘発できる非親告罪だ。しかし知的財産権に詳しい苗村博子弁護士によると、実際には育成者が訴えない限り、警察が捜査するのはまれ。専門家ではない警察に違反かどうかの判断は難しいためで、育成者が積極的に対処すべきだと指摘する。
長野県はフリマアプリを定期的に見回り、県育成品種の無断出品がないか確認している。2022年には無断増殖とみられるブドウ「ナガノパープル」の苗木を発見。警察に相談すると捜査が始まり、出品した男性が書類送検された。事件が報道されたことで、無断増殖の種苗の出品はほぼなくなったという。
一方「べにはるか」などの登録品種を育成した農研機構は「すぐに侵害事例かどうかの判断がつかないのが課題」と説明する。匿名で販売でき正規の許諾を受けて販売する種苗店などとの見分けが付きにくいという。
苗村弁護士は対策として種苗店と許諾契約を結ぶ際に、フリマアプリの利用禁止を条件にすることを提言する。アプリで登録品種の種苗が出品された時点で契約違反となるため、対処しやすくなる効果があるという。
特に、公金で品種開発をしている県や農研機構などの公的機関は他への模範を示す役割が求められる。見逃せば「種苗法は違反してもとがめられない」という誤ったメッセージにもなってしまう。
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