<ことば> LGBT
性的少数者の総称の一つ。レズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(戸籍の性別と異なる性自認の人)の英語の頭文字を取った。いまだ差別や偏見が根強く、社会生活のさまざまな場面で生きづらさを感じている。
農林漁業者、他職種より抵抗感強く
結果について同大学の河口和也教授(ジェンダー論)は、農林漁業が基幹産業である地方の家族観と関係があると説明する。親との同居率や持ち家率の高さなどから、男女が結婚し、子育てするといった伝統的な家族像が根付いていると指摘。「LGBTがその概念を崩すと懸念しているのだろう」とみる。
背景に伝統的家族観
河口教授は地方特有の課題として、多様な性の在り方の理解を促す場や、LGBTの当事者が交流できるコミュニティーの少なさを挙げる。「孤独は(自死など)命に直結する」(河口教授)。都市部では、当事者が集う飲食店やNPO法人などの支援団体も多い。
地方でも一部の自治体では、電話や面談での相談、就職や職場について話すコミュニティースペース、企業や教育機関への講演会といった活動を行う。「自治体は地域住民の理解醸成と当事者が集える場をつくり、支援の輪を広げてほしい」と河口教授は呼びかける。
「農業は自分らしく働ける」
農作業倉庫を星空サロンに
「孤立は怖い。町民が受け入れてくれて人生が変わった」
こう話すのは、島根県美郷町の獣害研究家・井上雅央さん(74)。戸籍上は男性だが、物心着いた頃から心は女性だ。「今世は失敗。そう思っていた」。約60年間、“本当の自分”を隠し続けた。
農研機構近畿中国四国農業研究センターを定年退職後、鳥獣害対策で招かれ、同町に移住。それを機に、勇気を出して好きな格好で外に出た。離れていく人もいた。だが、同町の住人からは“雅ねえ”と呼ばれ、親しまれるようになった。
「自分が全てさらけ出したから、相手もさらけ出してくれた」と井上さん。美郷町職員で、農研機構時代から交流のある安田亮さん(55)は「カミングアウト後の方が生き生きしている」と語る。
自らの経験を踏まえ、井上さんは農作業倉庫を「星空サロン」として開放し、県内外から訪れる人たちの悩みを聞く。「自分らしくいられる場所が増えてほしい」
孤立回避へ交流の場
農業を通じて、LGBTの孤立を防ぎたい――。そんな活動をする人がいる。心と体の性別が一致しないことで苦しむ性同一性障害の人を支援する会社「G―pit」代表の井上健斗さん(37)だ。自身も出生時は女性だったが、性別適合手術を受けて戸籍上も男性になった。農業は、LGBTが自分らしく働ける仕事だという。
どういうことか。井上さんによると、地方を含めて全国から同社を訪れる人には、職場の課題を抱える人が多い。トイレや服装、振る舞い方に悩み、定職に就けない人がいるという。だが「農業なら(これらを)気にしなくても作物相手に仕事ができる」。LGBTが働く場として、農業を始められないかと考えた。
2017年に、同社に農業事業「農家まっつら」を設立。自身は水戸市の日本農業実践学園で学びながら、手始めに茨城県笠間市の知人の農地4ヘクタールで米と野菜を生産し、田植えや稲刈りイベントを開いた。まずは、孤立しがちなLGBTの交流の場をつくるためだ。
開設したブログ「日本一LGBTにフレンドリーな農家」や交流サイト(SNS)で参加を呼びかけると、LGBTも、そうでない人も計約100人が集まり、東北や関西からの参加もあった。当事者が連絡先を交換し、井上さんは「地元にコミュニティーがないLGBTがつながりを持てた」とみる。
「人となり分かった」
「LGBTが周りにいないので、最初は怖かった」。井上さんによると、LGBTではない参加者には、そう思っていた人もいる。しかし「話してみたら普通だった」。井上さんは「どんな人か知らないから怖い。怖いから拒絶する。農作業を通じて人となりが分かり、その連鎖を断ち切れた」と話す。
イベントは19年まで6回開いたが、新型コロナウイルス下で休止して以降、再開できていない。農地を借りることにも「LGBTという言葉に拒否反応を示す人もおり、容易ではない」と感じる。だが井上さんは「理解ある人の協力を得ながら、まずは農地を探すところから再スタートしたい」と話している。
性的少数者1割超
リクルート(東京)の調査によると、LGBTQ+の人の割合は11・2%で1割を超えた。10、20代の若い世代に限ってみると、男女ともに約2割と高かった。
調査は2022年3月に実施。全国の15~69歳の1万277人にインターネットを通じてアンケートした。
性別は事前調査の回答を採用。「Q」はクエスチョニングの頭文字で自分の性が分からない人などのこと。「+」は他の多様な性の在り方を表す。
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