[論説]農産物の価格転嫁 法制化へ議論の加速を
農水省が発表した2023年の農業物価指数は、生産資材全体で121・3(20年=100)と、統計が残る1951年以降で最高となった。特に肥料と飼料は、20年と比べて5割も高い水準だ。
一方、農産物は107・8と資材に比べて上昇幅は小さく、価格転嫁が進んでいない。適正な価格形成に向けて政府は昨年6月、法制化の方針を示した。同8月からは生産者や小売り、消費者などを集めた協議会を開き、流通経路やコストを把握しやすい牛乳と豆腐、納豆で仕組み作りを進めている。
ただ、議論は思うように進んでいない。価格上昇が消費減少を招く恐れがあるとして、小売りなどが慎重姿勢を崩しておらず、議論開始から半年たった今も仕組み作りが具体化する気配は見えない。
気になるのは、国の消極的な姿勢が目立ってきたことだ。政府は昨年末に示した食料・農業・農村基本法の改正に伴う施策の工程表では「法制化」の文言は盛り込まず、通常国会への関連法案の提出も見送った。坂本哲志農相は1月26日の閣議後会見で、「法制化を含めたスケジュールは見通すことが難しい状況だ」と述べた。
だが、持続可能な農業を実現するには、農業所得の確保は不可欠。農産物の価格転嫁は避けて通れない課題だ。これでは農地の維持はおろか、食料自給率の向上はほど遠い。現場の離農に拍車をかけることになりかねない。
一定程度の値上げを許容する機運は生まれている。内閣府の世論調査によると、食品価格の値上げについて「許容できる」と答えた人が7割を超えた。岸田文雄首相は1月30日の施政方針演説で、「日本経済の最大の戦略課題はデフレ完全脱却だ」と強調。物価高に負けない賃上げと、中小企業の労務費上昇分の価格転嫁実現へ意欲を示した。だが国会答弁では、農産物の価格転嫁について「国民の理解醸成に努める」と述べるにとどまり、具体策は見えない。国は一層力を入れるべきだ。
価格転嫁を進めようとJA熊本中央会は昨年12月、県内の経済団体や県などと連携協定を結び、消費者の理解醸成などに協力して取り組む。生協と農協のように、生産者と消費者は「対等互恵」の関係であるべきだ。国の議論を待つばかりでなく、産地からも行動を起こしたい。