[論説]田んぼダムの力 水害対策に位置付けよ
田んぼダムは、小さな穴の開いた調整板などを水田の排水口に設置することで水の流出量を抑え、周辺の畑や集落、下流域の浸水リスクを減らす取り組みだ。費用や時間のかかる河川整備と比べて安価に設置でき、すぐ効果を発揮することから、各地で導入が広がっている。
昨年9月の記録的な大雨で、大規模な浸水被害が出た千葉県茂原市は、47ヘクタールで田んぼダムに取り組んでいる。2024年度はさらに7ヘクタール増える見込みだ。同市は頻繁に水害が発生していることから、一宮川流域の市町村長と県で協議会を発足。河川整備と雨水の貯留に加え、田んぼダムの設置を進める。
4月下旬に行われた任期満了に伴う同市の市長選でも、「田んぼダムの推進」を公約に掲げた元県議会議員が初当選した。市民の水害対策への関心が高く、田んぼダムへの期待が大きいことを示した。農業が果たす多面的機能を市民が評価した格好だ。地域に水田があることで米を作るだけでなく、豪雨時には下流域の市民の命を守る役目を果たしている。政府は、こうした農業の持つ多面的機能をもっと評価すべきだ。加えて田んぼダムの恩恵を受ける地域の住民にも米作りの意義や価値を発信し、サポーターになってもらう工夫も必要だ。
県も動く。浸水被害が相次ぐ地域を対象に26年度までの3年間で田んぼダムを導入する市町村を支援する。茂原市を含む14市町村が対象で1000万円の予算を計上、田んぼダムに必要なせき板や調整管などの費用の半額を補助。市町村からの補助もあるため、農家は金銭的な負担がなく田んぼダムに取り組める。
豪雨の時でも田んぼに行かずに、遠隔操作でせき板などを設置できる「スマート田んぼダム」の効果検証も進んでいる。田んぼダムをさらに広げる好機としたい。
一方、課題もある。一時的に大量の水をためることによって米の収量や品質に影響が出ないのか、設置の手間はどの程度か、取り組む農家の不安を払拭することが求められる。県や自治体、土地改良区、JAなど農業関係者だけでなく、下流域の住民を巻き込んだ情報共有が鍵となる。
温暖化に伴い、集中豪雨が各地で頻発する中で、水害を防ぐ対策の一つに田んぼダムを位置付け、各地で取り組みを進めよう。