同省によると、現状では農家が苗木を購入して所有権を得た時点で、購入した苗から育成者権が消える。このため正規に購入した苗であれば、農家は自由に譲渡・販売できる。
農家から購入苗を譲り受けた人が海外への持ち出し目的だったり、苗を違法に増殖してECサイトなどで販売したりしても、苗の入手方法自体は合法のため「対処が難しい場合もある」(同省知的財産課)という。
研究会の提言が想定するリース方式では、苗木の所有権が農家に移らず、育成者権者が保持し続ける。苗木を利用する農家には譲渡・販売禁止の義務を課すことができるようにして、不正利用が発覚した際も差し止め請求をしやすくし、優良品種の管理につなげるのが狙いだ。
フリマアプリで無断増殖とみられる苗が売られている問題への対応策も示された。フリマアプリは匿名取引のため、正規に増やした苗と無断で増やした苗の区別がつかず、違法かどうかの判断が難しい。このため、オンライン上で登録品種を販売する際、販売者情報の表示を義務付け、適正な売買かどうかを判断しやすくする。
海外流出の防止強化に向け、輸出目的で登録品種の苗を保管しただけでも刑事罰が適用できるよう提起した。2020年の種苗法改正で品種登録の際に海外への持ち出しが制限できるようになったが、実際に種苗が国外に持ち出されるまで処罰ができないことが課題となっていた。
海外の事例だと、初期費用の他に、ロイヤルティー(許諾料)などを育成者権者に支払う場合がある。リース方式導入に合わせて、農家が育成者に支払う新たな費用が発生すれば、反発が広がりかねない。
農水省はリース方式での苗木導入にかかるコストについて、現状と変わらない仕組みを想定しているという。ただ、これまでは農家の所有物になっていた苗木が、リース方式によって借り物になることに対し、農家の不安や抵抗感を招く恐れがある。農家が納得できて分かりやすく、利点がある制度設計が求められる。
改正種苗法によって、自家増殖の許諾制導入に加え、品種登録時に栽培地域の制限ができるようになり、不正利用・流出防止対策は一定に強化された。現状の種苗法で対応できない課題があるのであれば、現場に丁寧に説明していくべきだ。
フリマアプリで出回る違法な種苗、インターネット上の代理購入サイトを経由した種苗の海外流出など、デジタル化が進む中で出てきた新たな問題への対策も提言された。農家と育成者、双方の利益確保につながる対策でもあるので、迅速な具体化を求めたい。